【Minimalカルチャー対談】新政酒造・佐藤祐輔さん(後編)「文化である國酒を繋いでいく」

2023.01.04 #Minimal's Story & Report

新政酒造8代目当主・佐藤祐輔氏と、Minimal代表・山下の対談(後編)をお届けします。
日本酒の伝統製法「生酛(きもと)造り」を徹底し、「文化」としての日本酒を守るとはどういうことか、「新政」の美学と真髄に迫ります。
※前編はこちら


日本古来の造り方を守らないと、日本酒の存在意義はない。

山下
佐藤さんにとって、「生酛(きもと)」で酒造りをしていくのは必然なんですね。伝統をリスペクトしながら、味は軽やかに現代に合わせていくという。

佐藤さん
味はもちろんですが、それよりも大事なものもあると思っていて。

そもそも毎年米の出来も違うし、それを受け入れて造るので、うちの味はポンポン変わります。あと造り手側としても、年齢や飲食経験を経て味覚とか審美眼が変わるので。

味はかわっていいんです。けど、造り方に関しては可能な限りは日本古来のものを守らないと、そもそも伝統産業といえなくなるというか、日本酒の存在意義がなくなってしまわないかと思っています。

山下
たとえばですけど、酒造りっていろいろ作業を短縮できる方法が生まれているじゃないですか。山廃仕込みとか。

佐藤さん
山廃はまったく問題ないですけど、アルコール添加とか速醸とかは、もう本質的にリキュールみたいなものに思えます。なんか、日本酒の輪郭を曖昧にしちゃってるものだと思います。

山下
味は国際標準以上のおいしさがちゃんとあるという大前提の上で、造り方によって宿るものがあるということですか?それともその造り方を守ること自体が大事なんですか?

佐藤さん
造り方を守ること自体が大事ですね。あとはそれを前提とした上での話じゃないかな。

山下
もう少し詳しく聞いていいですか。それはどうしてですか?

佐藤さん
端的に伝統産業だからです。それってやっぱり時間はお金で買えないから、ほかの国が逆立ちしても日本にしかできないんです。伝統技術の形でそのまま再現できるのはすごい有利です。

山下
その伝統産業を背負うってことで言うと、すごい極論を言うと、もう全員「生酛にしろ」って思いますか?

佐藤さん
僭越ながら、その通りです(笑)。そのほうが国際的にも、日本酒がなにかということが理解されやすい。

もちろん、コストなどの点を含めて、実現は厳しいことはわかっています。

しかし僕は個人的には「生酛系純米酒」でなければ、日本酒として基本的には認めてないところがあります。そうでない酒も、仮に飲んでおいしいなとは思っても、尊敬まではできないです。

文化である國酒を繋いでいく。

山下
「國酒(こくしゅ)」という意識がすごく大事なんですね。

佐藤さん
造り手それぞれの問題なので、考え方はいろいろあっていいと思いますよ。しかし、わたしにとっては、日本酒は文化的飲料ですから、なんでもありで良いのかという疑問があります。

だって、そういったルールをすべて取っ払ったら、主原料の素材の良さも、個々の酒蔵の技術もなにもなしに、簡単に美味しいもの造れちゃう。

文化っていうのは、結局非合理なものでね。「文明」と「文化」は違うわけですよ。文明は、無駄がなくて合理的ですよ。でも文化ってもっと得体の知れない非合理の塊であって。わけがわかんなくて、問答無用であって。そこが魅力なんですよ。

山下
それはなんですかね。やっぱり美意識や欲求ですかね、文化ができる根幹にあるものって。

佐藤さん
文化って、根源的な人間の欲求というかプリミティブなものに発しているとことが強いです。

だから、合理的に解析しようとしても、難しくてできないんですね。だからそれを古いしきたりとして捨ててしまうのが現代の傾向です。

現代の意識では理解が難しい文化的なものを換骨奪胎して、より合理的にコントロールしようとするのが文明化です。そしてその瞬間に文化は失われてしまう。

そのままの形で生き残っているのが少ないですが、たとえば「宗教」とか。豚肉を食べてはだめ!とか。あと「神社」の存在とか、儀式一般なんて、完全に文化ですよね。

山下
本当にそうですね。

佐藤さん
あと、「スポーツ」も文化的な代物の最たるものです。スポーツのルールって、非常に冷静な視点から見ると、誰がこんなの決めたの?みたいなものですが、そのルールの中でやるわけですよ。ルールは絶対なものですが、特にそれでなければならないという必然性はない。でも、そういう文化的なものに対して人間は熱狂する。

だからジャンルにもよるけど、文化的なスパイスが強いものの方が、最終的に勝つこともある。特に嗜好品の世界では、いくら文明的なものづくりをしても結局負けちゃう場合がある。

日本酒もそうなんです。せっかく得体の知れない、現代科学では解明されないものがあるのに、それを換骨奪胎してわかりやすくして工業的なビール風にしちゃうのは、どうなんだろう。ロマンがなくなってしまう気がしますね。

山下
それは強く共感しますね。その得体の知れなさに人は魅了されるし、気配とも言うべきものを感じて、意味とか理由が理解出来なくても惹かれると思う。

文化的なスパイスが強いものづくりは、意味や理由を合理的に考えたら絶対にやらない事を平気でやれるから感動を生むんですね。

伝統文化をもつ「ロールプレイングとしての日本人」。

佐藤さん
僕ら「日本人の中で、日本に対する意識変革」が大事で、それがきちんと伴わないと日本酒も評価されないと思っています。

山下
それはどのように変わらないといけないんですか?

佐藤さん
これって僕らがそもそも日本酒の魅力を伝えきれていないことがそもそも悪いんですけど、日本酒のことを何も知らず、ワインには非常に詳しい人とか、当たり前のようにたくさんいるじゃないですか。

日本ではそれが普通ですよね。それを欧米人が見たら「なんで自分の生まれ育った国のお酒のことはなんにも知らないんだろう?」と疑問に思うんじゃないですかね?

それはやっぱりワインは世界的にも教養の一部となってもいるし、知ってた方がかっこいいでしょうね。でも、日本酒が負けているところは、本質的にはまったくない。日本酒はもっと日本人が誇りを持てるような産業になり得るはずです。

山下
それは佐藤さんの家業が酒蔵だったから感じていることですか?

佐藤さん
いや、バックパッカーで海外旅行をいっぱいしたからかな。3〜4ヶ月行っては、しばらく金を貯めてまた行くみたいな暮らしをしていた時期があります。海外に行かないと国際感覚って身につかないですよね。本当は暮らしてみたかったですが、機会がなかったのは残念です。

山下
その感覚は僕もバックパッカーをしたり、Minimalを始めるときに世界を周ったのでちょっと分かります。

佐藤さん
「ロールプレイングとしての日本人」はきちんとした方がいいんじゃないですかね。

日本人をやりきって、国際的な価値を生み出しだいですね。西洋品の単なる消費者でなくてね。そっちのほうが国際的な相互理解も進むでしょう。

山下
ああ、面白い。佐藤さんは俯瞰してゲームをプレイしている自分がわかってるし、その上でプレイヤーとしての自分もわかっていて。プレイヤーとしては日本人だからっていうことですかね。

佐藤さん
ヨーロッパに劣らない文化を持ち得ている国なのに、自分達でそれを卑下したり、理解できていない傾向が残念で。

例えば、安価な製品を大量に販売して稼ぐ会社の社長が、車やら時計やら、海外の高級品ばかり買い漁ってるみたいなことは決して珍しくない。まあ良いものは良いし、誰しも好きなものを買えばいいから、別にいいんですけど。

でも結果論として、稼ぎを全部欧米に貢いでばかりだと、なんか切ないよね。というより国として不健康です。

我々はそろそろ自国の文化を見直して、それをもって取り返していきたいと思いませんか。

理想を100%実現させる覚悟。

山下
いや面白いなあ。
今、佐藤さんが見ている未来で「こんな未来になったらいいな」ってありますか?

佐藤さん
うん。自分で「なりたい」と思ったことは100%やってはみます。結果はどうあれ。すべてうまくいかないにせよ、でも大枠は「必ずなる未来」ですよね。

山下
さすがです。その意志や芯の強さが新政酒造と佐藤さんの魅力ですね。今考える「なる未来」ってなんですか?直近だと。

佐藤さん
まず来年度は全量を木桶仕込み化します。木桶工房も造ってますね。

木桶が並ぶ仕込み蔵

山下
それは大阪の木桶の作り手が引退予定で、新政から人を送ってまで技術継承したお話ですよね。もうそれって、合理的に考えたら赤字ですよね。

佐藤さん
たぶんはじめは儲からないですね。それでも、赤字でもやるかどうかじゃない?

山下
はい、そこに合理性はいらないかと。必ず日本全体のためにもなりますよね。

佐藤さん
そう。できれば生酛も木桶も、もっと多くの蔵で採用してもらって、ムーブメントになればいいなと思います。

みんな、僕の言ってることを理解してとは言わないけど、聞いて欲しいという気持ちはいちおうあって。一般的なお客さんよりも同業者に伝わりにくいんですよね。

まあ実際、日本酒の蔵の経営は大変ですから、気持ちはわかります(笑)

山下
佐藤さんの話でいつも面白いなと思うのが、日本の国としてこうしないといけないっていう重ための使命感と、“アーティスト・佐藤祐輔”の自由におもろいことやるぞっていう軽やかさと、その二面性があるじゃないですか。

これはどういうふうに成り立っているんですか?

佐藤さん
リベラル型のアーティストに影響を受けてるからじゃないですかね。リベラルになったのはロックの影響でしょうし。

あとは「オリジナル」であるってことが大事という話です。日本酒ってそもそも世界的にすごいオリジナルな文化なんですよ。

誰もそんな価値を感じていないものに自分はすごい価値を感じてて、それを世間に納得させていくということです。

山下
まさにアートですね。

佐藤さん
そうです、アートの一種ですよね。日本酒は日用品でなくて伝統工芸であるべきと思ってますから。

振り切らないと、面白くならない。

山下
最後に、佐藤さんから見てMinimalってどう映りますか?

佐藤さん
実に興味深い会社だなと。うちと似てるなと思っていますよ。

山下
本当ですか?嬉しいです。

佐藤さん
本質的なことをやっていると、世の中にその良さが伝わらないことがあるんですよね。

でもMinimalは見せ方として、きちんと噛み砕いて翻訳して、市場に出している。

この両輪のバランスが取れているところが素晴らしいですよね。
チョコレートのあのザクザクした食感も斬新です。

山下
そういえば、あのザクザク食感って他社に追従されていないんですよね。ムーブメントを起こしていくっていう点でいうと本当にまだまだだなと思います。

佐藤さん
食感も含めてあのチョコレートって、やっぱりチョコレートをよく食べてる人間が評価するんじゃないですか。一般的な客はなめらかさを好むんでしょうが。

でも、そのぶんリテラシーがある、ちゃんと「わかっている」人が熱狂的に支えてくれているんでしょうね。
あと、「Bean To Bar(ビーン・トゥ・バー)」というコンセプトもいいし。

山下
僕らはBean to Bar の一般的なコンセプトからさらに一歩踏み込んで、素材であるカカオ豆の発酵からやっていて、それは日本酒に共通する部分があります。

さらに僕は「カカオを刺身で出したい」と思ってて、和食のように引き算で考えています。これは世界でも僕だけかもしれません(笑)

今日のお話を伺って気づきの一つが、新しいことをやるには日本酒の方がかなり難しそうだということでした。世の中に「日本酒ってこうだ」というイメージがめちゃくちゃあるから。

佐藤さん
日本酒って原材料も決まりきった中でやるので、惰性でやると本当につまらないものになるんです。醸造環境や原料特性などに関係なく、同じことが繰り返されるようになりがちです。

我々としてもかなり意図的に、新しい可能性にトライしてきたけど、そうでもしないと、単なる少し前の自分のコピーになってしまうんですよね。

伝統とは、本来は絶えざる革新の連続であるはずなんですよ。ルールに基づいた上での革新っていうのは非常に難しいのですが、やらなくてはならないんです。

山下
新政を毎年飲むと、毎年味が違うんですもん。僕は度肝を抜かれるわけですよ。佐藤さんには「そんなのあったっけ?そんな古いこと覚えてないけど」みたいに言われますけど(笑)。

僕は佐藤さんの影響で、やっぱりものづくりって世の中にない価値をどんどん提示していくだけじゃなくて、伝統の文脈の中で「文化」を示す重要性があると考えています。

まるで現代アートですよね。過去から積み重ねてきたものが現在の自分の味方だし、それを未来に向けてどう表現するかっていうことですもんね。

これかももっとたくさんクレイジーな事を一緒にやりましょう!

佐藤さん
はい、もちろんです。これからもよろしくお願いいたします。

対談は以上になります。
最後までお読みいただき、どうもありがとうございました。

佐藤祐輔さん
新政酒造8代目当主。創業170年を誇る秋田の酒蔵を率いて、秋田県産の酒米、生酛(きもと)純米造り、6号酵母、木桶仕込みなど伝統製法に回帰した酒造りを実施。ネーミングやラベルデザインを含めストーリー性のある商品展開で深刻な経営難に陥った酒蔵を再建し、日本酒愛好者から注目を集める存在となっています。秋田市河辺・鵜養(うやしない)では無農薬の酒米作りに挑戦中。

 

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