【Minimalカルチャー対談】新政酒造・佐藤祐輔さん(前編)「最先端をやめたなら、逆に振り切るしかない」

2022.12.31 #Minimal's Story & Report

時代をリードし、新たなカルチャーを生み出すトップランナーの方々に哲学や理念をお伺いする、Minimal代表・山下の対談企画が始まります。

第1回は、新政酒造8代目当主・佐藤祐輔氏。東京大学を卒業後、編集プロダクションを経てフリーライターとして活躍し、家業である創業170年の酒蔵を継いだ異色の経歴。日本酒の伝統製法「生酛(きもと)造り」を徹底するなど、熱狂的なファンを生み出す「新政」の美学と真髄に迫ります。



 

「オリジナル」へのこだわり。

山下
今回の対談の機会をいただけて光栄です。
Minimalがチョコレートを造りはじめたとき、カカオと砂糖だけで仕上げることにこだわったのですが、これは材料を少なくしたいというよりも、カカオを「刺身」で出したい、という思いがありました。佐藤さんは酒造りにどのように取り組まれてきましたか?

佐藤さん
うちも素材は一番大事にしています。でも、そもそも僕が(ジャーナリストをやめて)酒蔵に帰ってきた2007年ごろは、日本酒のイメージってあまりよくなかったんです。日本の伝統文化の一つなのだから、もっと理解してもらいたい、というのがスタートでした。

だからせめて、作り手の事情で添加物を入れているとか効率性を重視しているとか、悪いイメージを想起させるようなことはやめ、ちゃんとしたものづくりをした方がファンも増えるはずだと思っていました。

山下
そう考えられたのは何かの影響ですか?

佐藤さん
やっぱり「オリジナル」への強烈なこだわりがあって、偽物とか安易なパクリが大嫌いなんです。

ずっと音楽を聴いてきた影響が大きいです。ムーブメントを作るバンドってデビューアルバムは誰も理解しなかったりするんですけど、まずは本質を理解するリテラシーの高いファンがついて、それが時間が経つとだんだん理解者が増えてくるんです。で、ブレイクしたら似たようなバンドがわーっと出てくるという(笑)。

だから、やっぱり新しいジャンルを創造する必要がある時は、誰もやってないことをやらなきゃいけないなと思っていました。

ただし、それを支えるファンもいないとならない。なので、初めはひたすら教養のある方々へ向けて酒造りをしてきました。実際、そうしたファンが土台になって今でもうちを支えてくれています。

そういう意味でそのジャンルのレベルは、ファンのレベルなんです。売れ筋のわかりやすいものばかり提供せず、より深い見方ができるように、地道にファンを育てていかないと、そのジャンルは伸びないし、なにも起こらないですよね。

山下
僕もオリジナルへのこだわりは強くあります。オリジナルにはそこに感じる本物のオーラがありますよね。それはやはり自分の中からでてきている“何か”だからだと思います。僕は昔からそういった何かに対する嗅覚は人一倍あった方だと思っていて、ジャンル関係無く、この人(もしくはこれ)はヤバいなと感じるものはやはり純度の高いオリジナルであることが多いですね。そして、そういう人やものが大好きです。

佐藤さんは、何か新しいものが発現していくエネルギーを感じるのが好きだったのか、その裏にあるメッセージが好きなんでしょうか?

佐藤さん
そこはわからないですけど、日本酒とか音楽とかだったら同じく「これは大成功するな」って分かるんですね。文脈が分かっているからだと思います。音楽なら、いずれブレイクするバンドをいかに早く見つけられるかっていうのが、ファンとしての見識だと思いますから。

山下
そういう文脈を自分の中で理解していくのが好きなんですか?

僕の場合は「構造」をメタに理解したい欲求が強いんです。「こういう系譜でこう来てるから、今こうなっている」みたいなことを解き明かしたい欲求があって。

佐藤さん
僕はたぶん好きなアーティストが、評価されない中、ずっと頑張っていて、だんだん理解されてくるっていう姿を見て、すごいなと思っていたのが大きいかもしれない。

同じように日本酒も、当時から本当に見識のあるファンがいたんです。 彼らが日本酒を支えているんですね。

真っ当なものを造り、地道にやっていく。

佐藤さん
僕は「アルコール添加」はしたくないと思っていました。

灘や伏見の蔵が遠方に酒を送る時とか、醸造中に腐りそうな時に仕方なく入れるというやり方はありました。けど、これが一般的な手法として認可されたのは、戦後の米不足の時の法律で、その時の本を読むと時限立法と書いてあるんです。米の供給が元に戻ったらやめますという声明も業界が出してるのに、いまだにやめてない。これはもうおかしいんですよ。

本心としてはダメなのに、みんな目先の利益のためにだらだらと続けてきたわけです。それで今となっては結局うまく機能してないっていう。

山下
言うは易しで、惰性に流されるんですね……。そんな中、佐藤さんとしては「最初に圧倒的なお酒を造って衝撃を与えるぞ!」みたいなところから始まったんですか?

佐藤さん
いや、そこまでは思ってなかったです。結局、真っ当なものを造って、ファンをコツコツ増やしていくしかないと。さっきの音楽と同じですよね。突然ブレイクしてもダメになることも多いと思います。

山下
現在のラインアップは2008年にはほぼ全部揃っていたそうですが、6号酵母にこだわろうみたいなきっかけは何かあったんですか?

新政酒造の定番生酒であり、6号酵母の魅力をダイレクトに表現することを目的に醸造されるラインの「No.6(ナンバーシックス)」。Minimalでは2021年にNo.6を使った生チョコレートを販売。

佐藤さん
僕が蔵に帰ってくる前に、広島の酒類総合研究所で日本酒の勉強をさせてもらっていたんですね。
そこで先端技術を仕入れてきて、「大吟醸は自分でやる!」と言って蔵に入って蔵人と一緒に働きました。研究所では当時最新の酵母だった「きょうかい18号」の醸造実験を担当していたのですが、その酵母を使ってコンテスト用の酒を造ったら、全国新酒鑑評会で15年ぶりに新政酒造が金賞を取って、県の品評会でも最高位の受賞。

結局、東北清酒鑑評会でも好成績だったので、いきなり三冠を獲って驚かれたんですけど、僕は逆に冷めてしまったんです。何も造ったことがないやつが最新の情報を持ってきて、ちょっとやったら三冠って------これって単なる情報戦でしかないんだなと。単純につまらないです。これをずっとやっていたらやばいと思いました。

山下
逆に言えば、現場の人にはそういう科学的な考え方や情報って全然入らないんですか?

佐藤さん
いや、積極的に情報をとりにいけばなんとかなりますね。
杜氏同士でも情報交換をしているようですし、東京農業大学の卒業生なんかは皆、仲良くしていますよね。各都道府県の食品センターでも先端の情報はもらえます。だから、酒造りをはじめたばかりで右も左もわからないような人が、先生たちと二人三脚で出品酒を造って、即受賞とかよくありますよ。

でも、そんなふうに永遠に最先端技術を誰よりも早く完璧に仕入れる能力があるならいいと思うけど、そんなやり方私はごめんだと思って。

最先端をやめたなら、振り切るしかない。

佐藤さん
それでどうしようと思ったときに、うちの蔵で見つかった「きょうかい6号」(約90年前に新政酒造・五代目卯兵衛氏が現出させた清酒酵母。現在頒布されている協会酵母の中で最も歴史が古い)はどうだろうかと思ったんです。

すごい古い酵母で、もうあまり市場でも使われてなかったんですね。昔、販売元の醸造協会に行った時、当時の理事長に「6号酵母、あんまり売れないので、このままだと廃番になるぞ」と言われていたくらいでした。

山下
そうだったんですか?

佐藤さん
まあ、古すぎるので、使っている蔵も少ないですよね。だいたいどこの蔵も「きょうかい9号」っていう定評ある酵母とか、あとは最新型の香りがぶんぶん出る酵母を使うものなんです。でも逆にいいなと思いました。
みんなが打ち込みの音楽作っているときに、いきなりアコギを弾き始めた人みたいな感じ(笑)。

山下
でも6号酵母って、当時廃れていた理由があったわけですよね?その理由は全然気になりませんでした?

佐藤さん
使われていなかった理由は、酵母としてはベーシックすぎるからなんです。「きょうかい6号」は遺伝的には、今ある清酒酵母の祖なんですね。つまり今の酵母は6号酵母から全部ほぼ派生しているんです。バイクで言うとヤマハSR※みたいな感じ。
※オートバイの原型とされるスタイル。販売当初から大きな変更なくスタイルが受け継がれており、年代問わず人気が高い

山下
それはもう決めで、これでいこうみたいな直感でしたか?

佐藤さん
だって最先端に見切りをつけたら、もう別方向に振り切るしかないのかなと。

山下
振り切ることは本当に大事だと思います。中途半端が一番何も生まない。

僕もなめらかな口溶けが命と言われているチョコレートにおいて、中途半端に迎合せず、カカオ豆の香りや味わいをダイレクトにだすために、ザクザクした食感を全面にだすという振り切り方をしました。でも振り切るって勇気がいるんですよね。

佐藤さんはこっちって決めたら、もう早いんですか?それとも結構自分の中で迷いますか?

佐藤さん
これは全然迷わなかったです。

まあ流れとして、最新技術を追いかけている限りは、当たり前ですが、みんな同じ味の酒になっていかざるをえない。それなら対極の方向に行ったほうがいいです。


先端技術では、この国は敗北してしまう。

山下
「6号酵母を使おう」と決めて酒造りをしていくにあたり、他に大事にしたことはありますか?

佐藤さん
「生酛(きもと)づくり」ですね。僕は昔から古い文献を読んでいて、生酛を現代にリニューアルさせたらどうなるんだろう?と考えていました。やっぱり伝統産業をやっているので、何千年もある歴史の長い時間軸の中で培われたことをやってないと、意味がないと思っちゃうんです。

山下
佐藤さんがよく仰る「國酒(こくしゅ)」というお話があるじゃないですか。やっぱり國酒として繋いでいかなくちゃという思いは今も強いですか?

佐藤さん
はい。もう先端技術とかではこの国が勝つのは難しいのではと思っています。将来世界に誇って売れるのは、伝統品しかないかもと思うことがあります。それはヨーロッパとかもそうですよね、成熟した国になるほど、歴史性を活かしたものづくりを主にしてゆくべきなんです。

山下
日本酒はなんで売れるんですかね?

佐藤さん
売れてないけど(笑)。ただ、ものすごいポテンシャルがあるはずだと思います。日本古来のものだから、説得力があるんです。京都の街とかもそうですよね。成熟した国はそういうものを売っていくしかないと思います。

山下
古来からあるという事実が説得力になる。時間と言う価値はお金でも買えないし、代替できませんよね。

対談は佳境に入ってきたところで、後編に続きます!

※後編はこちら

文化(カルチャー)をつくるとは、文明との違いなど、さらに二人の話は深まっていきます!

佐藤祐輔さん
新政酒造8代目当主。創業170年を誇る秋田の酒蔵を率いて、秋田県産の酒米、生酛(きもと)純米造り、6号酵母、木桶仕込みなど伝統製法に回帰した酒造りを実施。ネーミングやラベルデザインを含めストーリー性のある商品展開で深刻な経営難に陥った酒蔵を再建し、日本酒愛好者から注目を集める存在となっています。秋田市河辺・鵜養(うやしない)では無農薬の酒米作りに挑戦中。

 

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 酸味とコクを感じるパート・ド・フリュイと、複雑な香りとともに濃厚な甘味と酸味をもつ陽乃鳥と、その強度の近い甘味と果実のような特徴的な酸味をもつタンザニア産カカオ豆からお造りしたチョコレートのマリアージュをぜひお楽しみください。

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引き算の哲学から生まれた、
新しいチョコレートのおいしさ

余分なものを引き算し、
カカオそれぞれの風味を引き立てる。
素材と真摯に向き合うことで生まれた
新しいチョコレートの体験を。

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