「東京×クラフト」のパイオニア『TYSONS & COMPANY』代表インタビュー編/寺田社長に聞く、1997年からの「東京クラフトカルチャー、黎明期と今と未来」

2018.06.25 #Minimal's Story & Report

1997年。「クラフト」がまだ聞き慣れない頃から東京・天王洲でクラフトビールをつくり続けている人気の醸造所併設レストラン「T.Y.HARBOR」。

Minimalが創業間もない2015年からご一緒させてもらっている「カカオ×ビール」コラボレーションは、2018年夏に第三弾をリリースします。

 

今回は「T.Y.HARBOR」、表参道「CICADA」、代官山「IVY PLACE」など、東京発の「ハンドクラフト」で注目を集め続ける「TYSONS & COMPANY」の寺田心平社長に、Minimal代表の山下よりインタビューをさせていただきました。

テーマは「東京×クラフト」。

寺田社長は20年間でどのように「東京クラフトカルチャー」を築いて来たのか?先駆者が考える「東京クラフトカルチャー」の現在と未来とは?

 

 

大手礼賛の時代に「クラフトビール」をはじめる

-今日はよろしくお願いします。

 

お願いします。僕がインタビューすれば良いんだっけ?(笑)

 

- いえ(笑)。僕がさせていただくので、「東京のクラフト」について今日は勉強をさせてください。T.Y.HARBORは1997年創業ですよね。20年以上前には、「クラフト」という言葉も一般的ではなかったと思います。実際「クラフト」はどういう環境でしたか?

 

そうですね、「クラフトって何?」という感じ。

クラフトの概念も無いし、職人的アプローチやモノづくりの想いよりも、皆が名前を知っていたりステータスを感じる「大手ブランドの消費」に価値がありましたね。

 

- なぜそんな環境で「クラフトビール」醸造をスタートしたのですか?

 

1994年に酒税法の改定があったのですが、先代の父がアメリカで体験したクラフトビールの美味しさを東京で伝えたいと。社内公募で集まった若手スタッフとゼロからビールをづくりを始めたのがスタートです。

 

- 先代の想いがきっかけだったんですね。

 

立ち上がりはしたのですが、最初は上手くいかず、立て直しのためにアメリカ人のチームを入れたところ日本人チームといがみ合うような状態できちんと運営が出来ていたとは言えませんでした。

 

- 寺田さんはその頃に参画されたんですよね?

 

そう、台湾の百貨店で働いていたのですが事業の様子を聞いて。

他に人がいなかったのもありますが、「T.Y.HARBOR」立ち上げ直後、留学の合間にビールをついだり、皿を洗ったり、出来ることで手伝いをしていたんです。とてもおもしろいと感じていたので、立て直しの話も前向きに受けました。

 

- 最初から順調ではなかったんですね。

 

順調どころかマイナスからのスタートでしたね。

 

「とりあえずビール」を覆す価値を提供する

 

- そこからチームを立て直し、いよいよ本格的に「クラフトビール」を広めていかれたわけですが、当時「クラフトビール」は受け入れられましたか?

 

いやいや。「とりあえずビール」の時代だったから。

「種類がありますが、どのビールにされますか?」と言っても「とりあえずビール」。

「ぺールエールというのがおすすめです」と言っても「わからないから、とりあえずビール。」

 

さっきも言ったようにお客さんは他に選択肢がない中で大手ブランド以外のものを知らなかったから、そもそも説明を聞いてもらえなかったですね。

 

- 今では想像つかないですね。

 

どこに行っても大手のビールしか買えないし、インターネットもそこまで普及してないので海外のクラフト文化、ビール文化も入ってなかったですしね。

ビールでは町おこしみたいな文脈で、地ビールが賑わいはじめていたのですが。

 

- 地ビール、流行っていましたね。

 

そうですね。ただ僕らは「地ビール」とは言わなかった。あくまで「ビール」。

ビールって丁寧につくると多様で本当に美味しいと思うんです。だから少量生産のビールが普通だと思っています。

「地域の」とか、「珍しい」とかじゃなくて、僕らは美味しい少量生産のビールを作っているんだ。大手ビールと対照して「地ビール」なんて変な言葉だと思っていました。

 

- そういう思いで「クラフト」にこだわられているんですね。でも「クラフト」が通じなくて「とりあえずビール」という時代から、今の人気のレストランになるまではかなりギャップがあるように思います。どういう取り組みをされたのですか?

 

とてもシンプルだけどお客様とコミュニケーションをたくさん取りました。

「ぺールエールはフルーティでありながらホップの苦みがバランスが良いですよ」「次のお料理にはアンバーエールがあうと思いますがいかがですか?」と。お客様にあわせて価値を伝えていくしかないですよね。

うちがやりやすかったのは「醸造所併設のレストラン」だったこと。

 

地ビールを作る多くの会社が日本酒の蔵元だったこともあり、多くの会社がメーカーとしてビールづくりを行うなか、レストラン企業として様々な店舗でクラフトビールをメニューに載せたところはほとんどなかったと思います。

それからうちが展開する各店でも、こだわりのクラフトビールとして丁寧に提供していきました。

お客さんの滞在時間が長いから話を聞いてもらえるし、その場で飲みながら会話が出来る。この環境はクラフトビールを広めたい僕たちには都合が良かったわけです。

 

- 食事・雰囲気の良いレストランがあって、そこで丁寧に伝えながら提供をしていく。傍目には今が華やかに見えてしまいますが、やはり積み重ねがあるんですね。僭越ながらとても共感するところがあります。僕たちも「今までのチョコレートと何が違うの?」「カカオって何?」を伝えるために、店舗でも催事でも必ず試食を出して説明をしていたり、ワークショップやイベントを大事にして毎月開催しています。

お客様が時間とお金を使って、体験を楽しみにしてきてくださる。その時間でコミュニケーションを取れて、付加価値に満足してくださる。カルチャーを広めたりファンになっていただく、これ以上の機会は無いですよ。

 

 

自分たちを表現する「遊び心」を失わないこと

 

- そもそもになりますが、寺田さんの「クラフト」や「東京」への思いって何ですか?

 

「クラフト」の価値は心の満足度です。僕自身、つくり手の顔が見えて、想いが見えるお店で食べることが好きです。もちろん一定の美味しさは前提だけど、その一皿に何が凝縮されているのか、心の満足度を欲しています。

 

僕は東京で育ったのだけど、東京生まれ東京育ちって埋もれているじゃないですか。多くの人が地方から出てきている。

 

- 僕も岐阜出身ですしね。  

 

そうでしょ。だから「東京」って便利とか楽しいとか商業的な中心っていう理由で人はいるけど、「地元を愛する」という感覚の人は少ないと思うんです。

でもやっぱり僕は東京出身だから、東京のことを親しみを持って、思い入れを持って、好きになってもらいたいし、「東京のクラフトビール」とか「東京発のクラフトの何か」が「地元愛」みたいなもののきっかけになってもらいたいと思っています。

モノづくりで東京でつくっていないのに「東京」を付けてるのを見ると良い気分がしないんですよ。

 

- わかります。でもそういうお菓子とかが売れていたりしますよね。。

「クラフト」を大切にする寺田さんが、大事にされていることはありますか?

 

「職人へのリスペクト」と「遊び心」は大事にしています。

 

実際に新しいものを生み出してくれるのは職人です。僕は生み出すこと自体は出来なくても、リスペクトと知識はしっかりと持ち合わせるようにしています。職人は環境さえあれば勝手にあれこれと試して良いものをどんどん提案してくれます。

なので職人のやりたいことや必要な環境・状況を理解して、職人のクリエーションのスイッチがオンになっているか気にしておくことが大事です。

「遊び心」はクラフトにとってはとても大事で、とても大変なことです。

 

お客様は「美味しい」に加えて、「特徴は何なのか」「どういう思いでつくっているのか」「どうやってつくられているのか」というクラフトならではの付加価値に期待をされています。だから「おもしろい、楽しい、新しい」みたいな驚きや喜びの提案は僕たち「クラフト」にとっては欠かせないですよ。

 

- 「遊び心」の大切さはわかってはいるのですが、うちもそうですが、少ない人数、手間のかかるひとつひとつの製造、日々の細かい仕事への対応で、「今」に必死になってしまっています。クラフトあるあるですよね。

 

そう、皆つくることに必死で、「やっと出来たー」と言って終わってしまう。最初は色々やってみよう、お客さんに楽しんでもらおう、知ってもらおう、と思ってるのに最後には余力が無くなっちゃっていて。

それは本当によくわかるんだけど、でもやっぱりつくり手にが遊び心がないとお客さんは楽しくないでしょ?だから意識して「遊び心」も持たないといけない。

 

クラフト、ものづくり、職人、というストイックさがないと良いものは生まれない。でも良いものをつくっていても会社が潰れてしまっては終わり。お客さんの心を引き付ける遊びも必要な時代ですね。大手にはない小さいリソースでフレキシブルに「遊び心」を表現するのはクラフトの醍醐味かもしれないね。

 

- 最近はじめられた「パイロットブルワリー」(実験的に少量のビールをつくれる設備)や、「エル・カミオン」(大型トラックを改造した移動型のクラフトビアバー)を始めたのも「遊び心」ですか?

 

そうだね。さっきも言ったけど、環境があれば職人はいつまでもいじって何かを考えて生み出してくれる。コラボレーションビールとか、実験を色々やることで新しいクリエーションも生まれるし。職人にとってパイロットブルワリーは良い意味でのおもちゃで、モチベーションでもあります。

「エル・カミオン」は全国どこででも「T.Y.HARBOR BREWERY」を知ってもらうための広告塔なんだけど、他のクラフトブランドとかビールメーカーが思いもつかないような、とにかく目立つトラックをつくってやろうと思ってさ。

- シーンのある場所に来てもらうのはなく、シーンごと届けに行く発想ってすごいですけど、実現させるのって頭おかしいですよね。(笑)

 

「遊び心」でしょ?(笑)せっかくクラフトやるならとことん自分達の思いを表現しないと。

 

 

「オープンな関係」がクラフトを進化させる

 

- 他にクラフトの特徴には何があると思われますか?

 

クラフトの世界は垣根が無いのが良いところ。ファンとつくり手にも垣根が無い。

つくり手同士もオープンで仲間って感覚。ライバルって感じではないじゃない?

工房を見せ合ったり、役に立ちそうなところを紹介し合ったり、コーヒーもビールもチョコレートも皆で情報交換をしたり。

 

クラフトにファンとか口コミは欠かせない存在です。

でも大手と違ってお金も人も少なくて宣伝力が無いから、なかなか知ってもらう機会がないじゃないですか。

 

だけどクラフトの人たちって、お客さんにもっと楽しい体験を知って欲しいから他のブランドをどんどん紹介するし、お客さんもクラフトのブランドをまわってくれるでしょ?

 

「うちのブランドだけでファンを増やす」のではなくて、「うちのブランドのファンにもっとうちを好きになってもらいたい」でも「ファンには他のクラフトカルチャーも楽しんでもらいたい」から「他に私が好きなクラフトブランドもおすすめする」、ということを皆がやっているから、潜在層も含めてファンが増えて、結果、気づいたら自分たちのブランドにもお客さんとして来てくださっている、という感じです。

 

オープンな関係で、例えばコラボレーションをしたり共同でレシピを開発したりして、ヒントを得たりクオリティやクリエーションを得るということも貴重な価値で醍醐味だし、自分たちだけではなく皆でファンを増やしていくというのもやっぱり醍醐味だと思います。自分たちだけではできないことがオープンな関係をベースに出来ていく。そのためには自分たちの力量を上げて仲間に価値を提供するっていうのも忘れちゃいけないですね。

- 自分たちを突き詰めながら、オープンにつながることで点と点がつながって、アイデアやファンが面のように広がるイメージですね。また僭越ですが、共感できます。僕たちはクラフトの仲間の力を借りて、お客さんにカカオやチョコレートの「新しい体験」を届けるイベント「Minimal’s Table」を毎月開催しています。僕らだけでは気付かなかったカカオやチョコレートの魅力を引き出してもらっています。使い方やレシピも大事ですが、モノづくり同士で話をしていると本当に色んなヒントを形にすることが出来るので、お客様も喜んでくれて。小規模なので徐々にですが今までうちを知らなかったお客さんも仲間のクラフトを介して来てくださるようになってきました。

 

他にはない、そこでしか体験出来ない、つくり手から話が聞けるのって、僕みたいなクラフト好きからしたら最高の時間ですよ。

 

- 今回の「ビール×カカオ」も寺田さんの胸を借りてコラボレーションさせていただいています。これもクラフトならではの表現ですね。

 

 

次に来るのは淘汰の時代

 

- 「クラフト」という言葉が市民権を得ました。僕たちも含めて新しいクラフトブランドも出てきています。今の「クラフトカルチャー」って寺田さんの目にはどう映っていますか?

本当に増えてますね。表現方法が様々になって、お客様の関心が高まるというのは嬉しいことです。

 

でも不安もあります。

食のマーケットは成熟しています。なので、大手がクラフトという言葉を使って商品を作ったりしていますが、それは僕らが考える「クラフト」ではありません。大手が「クラフト」と言い始めると、クラフトという言葉が安売りされてしまい、その本質が置いて行かれてしまう危険があります。

 

アメリカのクラフトビールがそうでしたが、日本でも「地ビール」は10年の時を経て淘汰され、「クラフトビール」として強いマーケットに育ちました。ちゃんとクオリティがあるのか、ファンが応援してくれているのか。あるところは高い価値を提供しつづけますし、ないところは淘汰される。「クラフト」には必然の流れです。

 

 

夏の「ビール×カカオ」”Cacao Sour Ale”は7月1日から

 

- 寺田さんと最初にお会いしたのは2015年の夏に富ヶ谷本店に来ていただいた時でしたね。ふらっと1人で来られて。もしかして、と思って店の裏で検索したんですよ。(笑)やっぱり寺田さんだったので、「ビールやらせてください」と声をおかけしました。(笑)

 

そうそう、そうだったね。今はマンションになったけど富ヶ谷交差点の駐車場に停めて行きましたよ。知り合いから「ぜひ行ってみて」と言われて。

 

- なんで受けていただけたんですか?今思えば唐突なお願いを受けていただいたことがビックリなのですが。

 

波長があったからかな。「クラフトです」「美味しいです」ってなっても、嫌な人とは一緒にやりたくないでしょ?アイデア出して、コンセプトを共有して、一緒につくっていくのに反りの合わない人とやっても良いものは出来ないし。

Minimalとは一緒にやりたいと思って、波長も商品開発も含めて今も続いているのは嬉しいことですね。

 

- 今夏もコラボレーションビールをご一緒させていただきました。

 

「カカオ・チョコレート」からは全く想像もつかない「カカオパルプ(カカオの実)」を使った夏に飲みたくなる、おもしろいサワーエールですね。とても爽やかな味わいなので今度昼から飲みましょう。(笑)

 

- はい、ぜひ。(笑)今日は「クラフト」についてお話を伺えて、たくさんの学びがありました。ありがとうございました。  

 

□商品・販売情報

Cacao Sour Ale

発売日:7月1日予定

取扱店舗:天王洲T.Y.HARBOR、原宿SMOKEHOUSE

     Minimal富ヶ谷本店(カフェ提供のみ)

 

■JOURNAL 「東京×クラフト」のパイオニア『T.Y.HARBOR BREWERY』 

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