恵比寿駅と広尾駅の間には、食通を唸らせる小さな名店が点在しています。「GEM by moto(ジェム バイ モト)」もそんな一店です。コの字型カウンターと個室のテーブル席がひとつという小振りな構えで、多くの女性客や年配客で賑わっています。
同店の店長であり、カウンターで客を迎える酒ソムリエの千葉麻里絵さんは、杜氏とも顔を突き合わせながらお店限定のオリジナルの酒造りまで手がける日本酒のスペシャリスト。毎日、お店のメニューを替えながら日本酒に合う料理を提供し続けるプロに、Flightの楽しみ方をお伺いしました。
チョコレートを「調味料」として考える。
私はチョコレートを調味料として捉えることがあるんですね。 Minimalさんの「カカオニブ」を日本酒と合わせることをずっとやっている中で、チョコレートをデザートではなく、日本酒と料理のペアリングに使えることを感じていました。
スパイスもまた日常的によく使っていましたので、スパイスとチョコレートが合いやすいということも経験上分かっていました。 スパイスで“甘い香り”のものってシナモンくらいしかないんですよね。Minimalさんのチョコレートは香りが濃厚なので、今回、チョコレートをスパイスにするのは面白いなと思いました。
朝は美容に効くホットなペアリング。
SAVORY FLORAL(コロンビア)×どぶろく
私、じつは朝に「どぶろく」を少し飲むことを広められないかと思っているんです(笑)。 加水してアルコール度数を下げて少量の1杯であれば、頭が活性化していいと思います。ちなみに私は毎朝お店で日本酒のテイスティング(試飲)をしますので、毎日飲んでいます。
日本酒はお肌に良いことで知られていて、日本酒をお風呂に入れる女優さんもいるほどです。そんな美容に良いものを直接摂取すれば効果は絶大です。 また、温めて飲むことで身体も温まりますし、酔いの回り方も綺麗です。
(レシピはページ下部に記載しております)
これはあくまでも酔うことが目的ではなく、楽しむためのお酒の使い方です。 ヨーロッパでは朝にホットワインも飲みますし、ランチビールやワインも多いです。お酒の楽しみ方が幅広いんですね。
日本には「燗酒」という素敵な文化があります。どぶろくはもっと気軽に飲めるお酒です。ホットワインにシナモンを入れるように、どぶろくにチョコレートと山椒を入れて味わうことを、新しい文化にしたいですね(笑)。
昼はチョコまぶしの竜田揚げ。
NUTTY ROASTY(ガーナ)× 肉料理 × 日本酒
お昼は、子供も大人も楽しめる調味料として使ってみました。 お肉料理にいつもと違う味付けを楽しんでいただきたくて、今回は竜田揚げにチョコレートをまぶしました。
(レシピはページ下部に記載しております)
チョコレートは、NUTTYを選びました。ごまとの相性をより重視しました。最後にしそを振りかければ大人用になります。酸味の下味をつけた鶏肉がポイントで、さっぱりした日本酒とのペアリングがお勧めです。
チョコを加えることにより、お肉のジューシーさを引き立たせ、複雑な香りが増すことでより風味とコクが出ます。 今回合わせたお酒はあえて揚げものに脂を切るものではなく酸味のある濃醇な味わいのお酒を合わせたのですが、チョコレートやシソ、胡麻などで複雑な風味を加えているのでそれが接着剤としてこういう日本酒と合う新しいペアリングの可能性が出来ます。 揚げ物とチョコレートの取り合わせと聞くと、少し奇をてらっているように感じられるかもしれませんが、スパイスと捉えてごまやしそと合わせると意外なくらいに合うんですね。ぜひお試しいただきたいです。
夜は「おつまみナッツ」でペアリング。
FRUITY CITRIC(ボリビア)× 8種のスパイス × 日本酒(貴醸酒)
貴醸酒には実はナッツが合うのですが、今回はそこにチョコレートを和えてみました。
私は、味を「色」と「形」で見ているところがあります。 味は、丸く整ってくると心地よい按配になります。たとえばお酒によってギザギザに尖っている形だったり、ペンシルで周りをくっきり削ったみたいな形に見えるのですが、その丸をイメージしながら足りない形を補うようにペアリングを考えていきます。
(レシピはページ下部に記載しております)
今回のスパイスの調合は、最初に「ごま+チョコレート」「アーモンド+チョコレート」という味の方向性が一緒のものをベースにして、そこに「クミン」や「シナモン」など香りのアクセントをつけて立体感を出すように組み立てました。そうやって「作りたい方向」の形をイメージして合わせていくんですね。
日本酒は、心が反映されるお酒。
日本酒は麹を加えることで発酵を促すのですが、その時に人が手で混ぜるわけです。機械とか器具じゃなくて作っている人の手がすごく入るので、同時に“心”が反映されるお酒だなと思っています。
私は仕込みの時期には毎週蔵元に行ってどういう人が作っているかを見るんですけど、「どういうチームになってきたから味がどう変わるか」ということを見たいんですね。そういうストーリーも全部ひっくるめて日本酒って面白いなと思います。農家にわざわざいくMinimalさんもきっと同じこと考えてますよね。
お酒をそのまま飲んでも美味しいけど、こういう人が作っているというストーリーを語ることでもっと美味しくなることがある。それは作り手にはなかなかできないことですし、飲食業の自分たちだからこそできることだと思っています。
極論を言えば、私、お客さんのことしか考えてないですね。 お客さんに伝えるために蔵元に行くわけですし。むしろ「伝える」からには知らなきゃいけないと思います。そういう責任感はあります。 人の口に入るものをそんなに簡単に出しちゃいけないと思うんです。そもそも、美味しくない日本酒の出し方では、お酒がかわいそうですよね(笑)。
●今回お伺いしたお店 「GEM by moto(ジェム バイ モト)」
千葉麻里絵さんプロフィール 酒ソムリエ 恵比寿 GEM by moto店主。 化学的知見をもとに一人ひとりの“今”に合った日本酒を提供し日本のみならず海外のファンを楽しませている一方で、様々なジャンルの料理人とのコラボから日本酒体験に時間と空間と温度を取り入れた新しいスタイルを模索している。 さらに、“口内調味”をキーワードに知恵の組み合わせによって日本酒体験の幅を広げつつ、表現としての日本酒の可能性にも挑戦している。
また、日本酒の提供に論理的アプローチを取り入れるべくSAKEカルテを考案し、たくさんの人が楽しく日本酒に出会えることを目指している。
●今回登場したチョコレート
朝 / Morning SAVORY FLORAL(コロンビア) 白ブドウのような風味
昼 / Lunch NUTTY ROASTY(ガーナ) 馴染み深いチョコレートの風味
夜 / Night FRUITY CITRIC(ボリビア) 焼きミカンのような風味
●レシピ
朝の「チョコレートどぶろく」
○用意するもの
チョコレート 5g
どぶろく(甘酒・ライスミルクでも代用可)90ml
山椒 少々
木の芽 少々
1 お酒を温める 湯煎して60度くらいにお酒を温める。
2 チョコレートをパウダー状に削る お酒をグラスに注ぎ、チョコレートをパウダーにして振りかける。 (甘くしたい時はチョコレートを多めに調整してください)
3 山椒と木の芽を加える 最後に山椒と木の芽をお好みで振りかけて完成。 (山椒の代わりにシナモンでも美味しく飲めます)
昼の「スパイス肉料理」
○用意するもの
チョコレート 20g
ごま 適量
シナモン 適量
しそ 適量
竜田揚げ(お好みの肉料理)
日本酒(さっぱりした銘柄がお勧め)
1 スパイスを作る チョコレートを刻み、ごまとシナモンをパウダーにして和える。
2 肉料理を作る 酸味の下味をつけた鳥を竜田揚げにする。
3 肉料理にスパイスを振りかける お皿に盛った肉料理に、スパイスを振りかけ、最後に刻んだしそを添えて完成。
夜の「8種のスパイシーナッツ」
○ご用意するもの
チョコレート 20g
スパイスナッツ(アーモンド、ピスタチオ、白ごま、クコの実、コリアンダー、アニス、クミン、シナモン) 適量
塩 少々
日本酒
1 チョコレートを刻む 包丁でチョコレートを切り分ける。
2 スパイスを混ぜる 各種スパイスをボウルに混ぜて完成