【Minimalカルチャー対談】〈とおの屋 要〉オーナー・佐々木要太郎さん(後編)「最終的には“村”を作りたい」

2023.11.29 #Minimal's Story & Report

日本一予約の取れない宿として知られる〈とおの屋 要〉。
岩手県・遠野市で、一日一組のみ宿泊を受け付けているオーベルジュです。
オーナーの佐々木要太郎さんと、Minimal代表・山下が、日本のものづくりの過去と未来について語り合いました。前編・中編・後編の全3回でお届けします。

※前編はこちら
※中編はこちら

子どもたちと料理を作る児童館

山下
ここからは、要太郎さんが次の10年に向けて考えていることをおうかがいしていきたいです。

佐々木さん
僕はこの10年で一つやりたいことがありまして。それは児童館(学童館)の運営ですね。どんな児童館かというと、都会で料理をする児童館です。

山下
ああ。面白い。

佐々木さん
一緒に子どもたちと料理を作って、親御さんの迎えを待つ児童館をやりたくて。今は共働きの家が多いと思うので、子どもたちをただ待たせるんじゃなくて、「食」に特化した児童館。

山下
めちゃくちゃ面白いですね。めちゃくちゃいいと思います。

佐々木さん
作るのは、至ってシンプルな味噌汁とかご飯とか漬物とか。昔ながらのそういったものを自分たちで作ることをやりたいですね。

山下
季節のものをとって食べるとか、素材の味を知るというのも含めてできそうですよね。

佐々木さん
そうですそうです。収穫となったら農家さんとタイアップして参加させてもらったりとか。これは今けっこう急ピッチに進めようと思ってまして。

山下
「食育」をなさりたいと思ったきっかけはありましたか?

佐々木さん
前編でお話ししたうちの若手みたいな、「靴が汚れるじゃないよ!」っていう話ですよね。今はお惣菜もすごく便利に買える世の中ですけど、やっぱり自分たちで食べるものは自分たちでちゃんと作りましょうよ、という。

山下
それはやっぱり危機感なんですね。

佐々木さん
ああ、そうです。僕をいつも動かしてくれた原動力には「危機感」が大きいかもしれないです。次の世代の子どもたちが「飲食」に興味を持ってお金落としてくれないと、僕のなりわいだってなくなりますから。

ディズニーランドのように、すべて完結する「村」

佐々木さん
そして一番最終的な目標としては、いつも言って笑われるんですけど、「村」を作りたいんです。

どんな村かというと、まず稲作を必ずやり、もちろんどぶろく醸造があり、宿やレストランがあり、他にも建物を用意してその箱で商売を始めたい人を集めて、一つの集落みたいなところを作りたいんですね。一人一人が夢を持てて、なおかつその夢がビジネスにちゃんと成り立つような提供場所を作りたいです。

山下
なるほど。

佐々木さん
なんでそれをやりたいかというと、田舎ってやっぱり今のように僕の一店舗だけがあっても仕方ないんですよね。「そこに行くといろんな要素のお店があるから行ってみよう」ってなると思うので。

ディズニーランドみたいなものです。あの中ですべて完結するじゃないですか。そういう場所が各田舎に一つでもあると、そこの地方って絶対発展していくと思うんですよね。

山下
ほんとそうですね。一番イケてないのは、たとえば要太郎さんのお店があると、そこに乗っかろうとするニセモノみたいなのが増えるじゃないですか。それが一番ダサい。本当にちゃんとやっている人が集まった場所ができたらめちゃくちゃいいですよね。

日本はものすごいハイクオリティの職人集団

山下
要太郎さんのその一番根幹にある思いってなんですか?

佐々木さん
それはもう、やっぱり「自然環境」ですね。

たとえば遠野という場所が廃れていくと、残念なことに自然環境も荒れてくるんですよ。じつは山って縄文時代から人が管理して植林してできあがっているものなんですね。だから「人」の役割も自然界において大事なんです。

自然環境が荒れ果てて、これまで培ってきた伝統野菜や伝統産業が衰退したら、日本って終わりですよ。日本はものすごいハイクオリティの職人集団なんですよね。たとえば海外の料理もとんでもなく昇華させるじゃないですか。

山下
まったくその通りです。

佐々木さん
チョコレートだってもともと海外のものなのに、Minimalのようにとんでもなく昇華させる職人集団がいるわけです。

山下
ありがとうございます(笑)。

佐々木さん
日本人って、すごい人種だなといつも思ってるんです。

山下
まったく同じことを僕も思っています。

佐々木さん
里の文化や街の文化って、山から下ってきてるんですよ。山で行われていた文化が里になっていって、町になっていくので、原点は山なんです。その原点をきちんとしていくにはどうしたらいいかと考えたときに、人の流れを止めたらダメなんです。

山下
今のお話をうかがってて、イタリアの「ブルネロ・クチネリ」のことを思い出しました。世界的ファッションブランドなんですけど、ソロメオ村という小さな村の古城を本社にして、村には縫製職人などの工房があるんです。簡単に言うと、村を一周して服が一着できるんです。

佐々木さん
ああ、まるで日本の“桶”文化※と一緒ですね。

山下
本当にそうですね。

※酒造業・農業・漁業等で使われる木桶を造る木桶職人は、かつて各村におり、修繕しながら一つの木桶を100年以上使っていた。また「空き樽」問屋という、酒造に使われた樽を醤油・味噌造りに再利用して循環を担う仕組みもあった。

だったら全部「手」でやればいい

山下
今、日常的に廉価で食べられるお菓子は基本的に大量生産です。大量に安く作れると言うことは工場での機械生産なんです。そうすると、工場の機械の制約条件で、安い油を入れなきゃいけないとか、硬く仕上げなきゃいけないとかあるんです。そうなると、本当はこだわって手仕事でやりたい事ができない。でも手仕事だと量が作れないから機械を使うというジレンマが発生している。

だったら全部「手でやればいい」と思ったんですよ。もちろん機械も使います。でも手仕事をなくして量産する機械ではなく、クオリティを上げる手仕事を手伝う機械です。

その時にそれができる職人が100人でも1000人でもいれば可能なんです。そのために、ちゃんと経済が回り、ちゃんと暮らせる給料が支払われれば問題ないじゃないですか。そうするとパートタイムや時短で働く人がいてもよくて、例えばその村の全員が職人を目指せればいい。

その村を食わせられるような経済規模って、チョコレートの日本の消費量やさらには全世界規模で考えると十分にあるわけですよ。だから僕、円安はチャンスだと思っていて、日本で全部作って、日本から円安で外貨を取りまくればいいんじゃないかって。日本の田舎にちゃんとチョコレートを造れる産業の街ができたらすごい面白いなと思ってるんですよ。

佐々木さん
面白いですよね。

山下
僕がなぜMinimalの新店舗で「業態」を増やしているかというと、チョコレートに関する業態を全部やることによって、「村」で必要な職種も分かると思っているんです。「日本においしいチョコレートがあるよ」となればインバウンドも来るかもしれませんし。

佐々木さん
やりたいことがすごく近いです(笑)。やっぱり同じようなところに行き着くんでしょうかね。

山下
だから僕も先ほどの児童館のお話は、すごく響きました。やっぱり日本という国にとって大事なことですよね。この食文化で育ち、季節の変化を感じて生きてきたきめ細かさがありますよね。

大事なのは、やっぱり「手」でものを造ることだと思っているんです。それも「ものすごいハイクオリティの職人集団」の民族性があるのだから、この性質を思いきり活かして、圧倒的にすごいものを造り、「やっぱり日本人が作ると全然違うね」「機械じゃないから当たり前でしょ!」ということをやれたらすごいいいなと思っているんですよ。

まだ10年でそこまではいけないと思うので、ちゃんと基礎工事するというのが、僕の次の10年でやりたいことですね。

佐々木さん
そうですね。今、教育から作っていくことで、やがて僕たちが採用をしたいと思ったとき、同じ感性の人の数が増えている時代が来ると思います。それは今からやらないとダメだと思いますね。

かっこよくないと、次の世代が参入しない

山下
最後に、要太郎さんからご覧になられて、Minimalってどう思われていますか?

佐々木さん
非常にかっこいいことをやられていると思います。ただ単にファッション性でかっこいいだけではなくて、すごく日本人らしいやり方で造られていると、チョコレートを食べたときに思いました。あのラインアップを見ても、多様性を無碍にせずにやられていますよね。

山下
あれは経済合理性がまったくないですよね(笑)。本当は売れている銘柄だけ造った方が効率はいいんでしょうけど。あと毎年レシピを変えていますし。

佐々木さん
そこもやっぱりすごく舵取りをきちっとされていますよね。これは変な意味で捉えていただきたくないのですが、東京という「世界最先端の食の都」にあって、Minimalは大都市らしくないやり方をされていますよね。だからアウトプットが圧倒的に違いますよね。

山下
ありがとうございます。嬉しいです。今、要太郎さんがおっしゃってくださった「かっこいい/かっこ悪い」ってめちゃくちゃ大事だと思っているんです。なんか、ちゃんとやらないと、かっこ悪いんですよね。それができないなら、違うことでお金儲けしたほうがいいんじゃないの?と思っちゃうんです。

佐々木さん
うん、やっぱりかっこよさって大事ですね。そうじゃないと、次の世代が参入してくれないと思います。

山下
本当にそうですよね。
今日のお話を経てたくさんの学びを得ました。本当にありがとうございました。
そして、近い将来要太郎さんの児童館でバレンタインの時期に「チョコレート造り」を子どもたちと一緒にやらせて下さい

佐々木さん
せひお願いします。


対談は以上になります。
最後までお読みいただき、どうもありがとうございました。

佐々木要太郎さん
1981年遠野市生まれ。料理人/醸造家。100年余り続いてきた民宿「とおの」を4代目として継ぐ。料理の基礎を父から学んだ後、独学で料理を極める。その傍らでどぶろく造りを始め、2011年9月から民宿の隣に「とおの屋 要」をオープンし、ゆったりとした時が流れるレストラン、1日1組限定のオーベルジュを構えている。
http://tonoya-yo.com/index.html

 

※Minimalカルチャー対談、過去の連載はこちら

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