Minimal創業メンバーの一人であるエンジニアリングディレクター・朝日の視点から、Minimalのものづくり思想について日々考えていることをお届けします。
第5回は、エンジニアの目線でチョコレート造りに向き合うこと、そして僕が考えるこれからのチョコレートづくりで目指すことについてお話しします。
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分かりやすさとは、納得感
前回、「分かりやすさ」のためにMinimalでは風味のラベリングを行い、お客さんが入口でつまずくことのないようにシステムを整えるお話をしました。
今回はその続きで、分かりやすさについてもう少し考えてみたいと思います。
分かりやすさとは、お客さんの「納得感」だと僕は考えています。
チョコレートの風味で何を感じ取れるかというのは個人の食体験によりますが、専門知識がなくてもMinimalではお客さんが理解しやすい風味のラベリングをしています。
たとえば「ぶどうのような味のチョコレート」があったとして、食べてみると「たしかにぶどうの味がする!」と納得感がある。これは記憶に残る体験になります。
「チョコレートを食べた」ではなく「ぶどうみたいなチョコレートを食べた」「これって一体なんだっけ?」というところまで興味を引き出せればしめたものです。
あるいは隣の人と「ぶどうみたいだね」みたいなお話ができれば、コミュニティの醸成にもつながります。
お客さんに参加してもらうステップ
そこからさらにお客さんの納得感を高めるには、「参加してもらう」という関与の仕方がポイントになると思います。
たとえば、今お客さんの要望を聞くとすると「フルーツのような風味のチョコレートが食べたい」というところまでかもしれません。
僕らはそれを聞いて、手持ちのカカオ(インプット)から「みかんとぶどう(のようなフレーバーが引き出せるカカオ豆)があって、今一番調子が良いのはみかんですね」という感じでチョコレート(アウトプット)を造ります。
これを、「今みかんとぶどうがありますけど、どちらが興味ありますか?」「あるいは混ぜてみますか?」などとお客さんを巻き込むように参加してもらうのが次の段階と言えます。
今は、お客さんには完成品しか見せていません。つまり、お客さんに見えているのはアウトプットの画面だけなのです。
インプットとアウトプットの真ん中までお客さんと一緒に見られるようになると、納得度が上がるのではないでしょうか。
システムエンジニアの発想ならば、これは普通のことです。
システムを納品した後に、2年目や3年目にシステムレビューをして「使いにくいところはないですか?」「どこがよかったですか?」などとヒアリングし、「今年はここを改善しましょう」「ここを変えるともっといろんなことができますよね」と提案していきます。
こうしてメンテナンスをすることでエンジニアが飯を食っている側面があるわけですが(笑)、お客さんと一緒にバージョンアップしていくのはごく自然なことです。
強烈なファンを100人つくること
「今、入荷したカカオがあって2ヶ月後に新しいチョコレートを出そうかと思うのですが、みんなで投票しませんか?」みたいな仕組みやワークショップがあり、インプットとアウトプットの真ん中を共有する機会が出てくると、僕らも今までとは違う方法論でチョコレートと向き合うことになります。
もちろん、お客さんが持つ知識も徐々に増えていく必要がありますが、僕らは「チョコレートを嗜好品にする」という文化づくりに挑んでいるので、こういう強烈なファンをまずは100人つくることが次のステップかなと思います。
お客さんの納得感は、お客さん自身の食体験の延長線上にあるので、その体験をより豊かにしていかないと、より大きな納得や新しい納得は作れないと思うのです。
僕は、Minimalはお客さんの「次の納得」をつくる段階に来ていると感じています。
エンジニアの目線で、観念的に見る
話が変わりますが、初回のイタリア修行時代のお話に紐づけると、イタリアの中世に「ルネッサンス(イタリア語ではリナシメント)」という運動が起こりました。
人間の感情に回帰しましょうという運動です。
宗教が頑張ってしまった1500年間ほどがあって、ちょっと窮屈だよね、新しいことがないとつまらないよね、という人たちがちらほら出てきて、いろいろなことを本能的に見てみようという動きが起きました。
僕はチョコレートをそんなふうに捉えたいと考えています。
ルネッサンスは芸術的な側面で語られることが多いですが、ガリレイやダ・ヴィンチのようにサイエンスの部分で「根本的に一体これは何だっけ?」というところを突き詰めた結果、新しい世界を切り開いた人たちがいました。
僕がやりたいのはそういう部分です。
「チョコレートって一体なんだっけ?」というものを、お菓子屋の側面ではなく、エンジニアの目線で「観念的にいったいこれは何だろう?」「物理的にこれは一体だったのか?」と見ていきたいのです。
それが「嗜好品としてのチョコレート」という機能を洗練させていく上では有効だろうと思うからです。
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