2023年9月オープン予定のMinimalの新業態"パティスリー"祖師ヶ谷大蔵店は現在(7月末)、鋭意施工中です。
店舗設計を担当した坂田さん(写真右)と、Minimal代表・山下(写真左)が、新業態への思い、新店舗の設計コンセプト、ディテールのこだわりなどを幅広く語り合います。
前編は、店舗コンセプトが定まるまでを振り返ります。
創業の地「富ヶ谷本店」の設計から8年!"友だち"のような信頼感
山下
建築家の坂田くんに店舗設計をお願いするのは、Minimal創業時の「富ヶ谷本店」以来です。当時、僕が30歳になったばかりの頃で、坂田くんは20代だったよね?
※2014年、富ヶ谷本店施工中の坂田さん(写真左)と代表山下(写真中央)。そして今回の祖師ヶ谷大蔵の施工もおこなう荒木さん(写真右)
坂田さん
そうでしたね。
山下
その後も、また何かやりたいねという話はずっとしていて。
坂田さん
仕事とは関係なく、年に何度か食事に誘ってもらったりしてましたね。
山下
今回、工房を増やして新店舗を構えるという「第2創業」のようなタイミングだったので、坂田くんにお願いしたいと思いました。
というより、坂田くん以外にあまり選択肢が浮かばなかったです。
僕らの仕事の進め方をよく知ってくれているし、一緒に思考してくれる安心感もあったし、何より僕らの初期の何もなかった時に「ゼロから店を一緒に立ち上げた」信頼感もすごく大きかったので。だから自然な流れでしたね。
坂田さん
ありがたいです。
山下
ちょっと言葉が適切かわからないですけど、僕はよく「友だち経営」と言ってるんです。
それぞれの分野でプロフェッショナルとして尊敬できる活躍をされていて、仕事で出会ったんだけど、僕が勝手に「感覚が近い」と思っていて仲良くさせてもらっている友人。そういう友だちみたいな感覚を持ちつつ、プロとして真摯に向き合うみたいな間柄が理想じゃないかと。
坂田くんとは最初に会った時から10年近く経っているので、どんな進化をしているだろうとすごく楽しみでした。
職住近接の街に、パティスリーがあること
坂田さん
当初は工房の完全移転みたいな計画でしたよね。
山下
そうそう。2年がかりで候補地を探していました。結果的に、祖師ヶ谷大蔵に決まったのですが、あちこちたくさん見に行きましたね。
坂田さん
これまで都心に店舗を構えていたMinimalが、住宅街の中にある商店街に出店するということで、僕も街を歩きながらどんな店構えがいいか考えました。
暮らしに密着したリラックスできる雰囲気の街にあって、Minimalのような真摯なものづくりをする工房がどうあるべきかと考えたとき、できれば、(おこがましいですが)この街にとっても「Minimalがいてくれる商店街」ということに誇りを持ってくれたら嬉しいという思いがありました。
山下
Minimalは今、小田急沿線にお店を構えていて、このエリアのお客さまに育てていただいているという思いが、まずあります。
そしてコロナ禍を経て思ったのが、職住近接の街にケーキ屋さんや洋菓子屋さんがあることはとても意味のあることだということでした。
スイーツは難しいことを考えずに食べて幸せになったり、一緒に共有できる「コミュニケーション・ツール」としての側面がありますよね。
僕はコロナ禍でそれを痛感しました。
だから「人が普通に暮らしている街のパティスリー」として、僕らのものづくりが価値あるものになってくれたらという思いもあって決めました。
※祖師ヶ谷大蔵駅前の商店街
コンセプトは、職人のアトリエ
坂田さん
そのあたりから「職人のアトリエ」というコンセプトが徐々に固まっていきましたね。
普段は都心に店を構える職人が、少し郊外に広めのアトリエを造り、がらんとした工房スペースに機材をドンドンと置いて、そこでゆったり人を招ける場所も設ける、というイメージでした。
山下さんと話しながら、職人たちが手で造っている現場が「見える」ということが大事になるとも感じました。
※施工中の祖師ヶ谷大蔵店
山下
そう。僕が思ったのは、僕らのアイデンティティは「ものづくり」にあるので、そのクリエイティビティを発揮できる場所であることがまず大事なんですよね。そしてそのクリエイティブの源泉の一つが何かというと、お客さまだと思うんですね。
お客さまの表情や反応があり、その「距離が近い」ことが大事なんです。そういう自分たちのスタイルをきちんと表現できる場所がいいと思ったときに、坂田くんが「アトリエ」というテーマを提案してくれたんですね。
坂田さん
山下さんが以前「厨房ってどこも真っ白なクリーンルームみたいになりがちで、お洒落さがまったくない環境で、そこにこもって造っている人の気持ちってどうなんだろうね」と気にされていたのもありましたね。
僕は、職人が好きなものを集めて空間を造っていくようなイメージがいいなと思いました。
山下
坂田くんと話したのは、アトリエって「造っている個人の匂い」をちゃんと残して、趣味性の高い空間にしたいね、ということでした。
アトリエは華美に装飾するより、元の素材を活かしながら、自分たちのスタイルにしていくという「クラフトマンシップ」を形にすることにもつながるので。
裏コンセプトは“ちょっとオトナになったMinimal”
坂田さん
僕の中では、10年前の富ヶ谷本店といかに違いをつけるかというのも大きなテーマでした。
創業時の1店舗目と比べると、当然人数も増えているし、Minimalの存在感も広がっています。ここからさらに10年後に向けて広がっていくときのモデルにしたいと思っていました。
「もし富ヶ谷本店を今ブラッシュアップしてリニューアルするなら」という提示をしてみたいなと。
山下
うん。
坂田さん
富ヶ谷本店は、クラフト感を大事にしたいということで「自分たちでも手を動かして造るんだ!」みたいな強い思いから、山下さんも粉まみれで工事をやってましたよね。
※富ヶ谷本店の床をつくるMinimal代表・山下
その“個人店舗”のようなサイズ感と、これから規模が大きくなっていったときの“綺麗さ”のバランスが大事、という話はよくしましたね。僕の中の裏テーマは「ちょっとオトナになったMinimal」でした。
山下さんや工房の人と話していると、労働時間のことや組織の話が出てきて、ちゃんと働く人の幸福度をすごく大事にしていることが伝わってきました。
富ヶ谷本店のときは、みんな同じ部屋に寝泊まりして、永遠に作業するみたいな感じでしたから(苦笑)
※富ヶ谷本店の施工中の様子
山下
そうだったね。ちゃんと大人として真っ当にものづくりしながら、みんなの幸福感も創れる場所ができるといいなとは思ってましたよね。
坂田さん
ちなみに、新店舗のレイアウトは奇しくも富ヶ谷本店のカウンターの形とかなり近似しました。
左右反転すると重なる形で、ファサードからレジ台までの奥行きもほぼ一緒です。
※新店・祖師ヶ谷大蔵店の内観イメージ
10年間の関係があってたどり着いた新店舗
山下
今回仕事をしてみて、創業時に比べると僕の関わり方は少なく狭くなってきてると思いました。
昔は全方位的に自分で見てましたけど、今は「芯を見つけて深く刺す」ということしか意識してないので。スタッフにはけっこう任せられるようになってきたなと感じました。
……あ、でもけっこう細かいところにも口を出してるかな(笑)。
坂田さん
いや、前より山下さんは見ないところは見なくなっている気がしますよ。
大事なところだけ深くやっておくというのは分かりますね。
山下
「対話のパートナー」として坂田くんが10年前とは違う深みを持ってくれていたのもありがたかったです。
やっぱり坂田くんとじゃなかったらこの店は作れなかったというか、たぶんこの感じになってないと思いますから。
それも、お互い首根っこつかみあって喧嘩しながらっていう熱いドラマがあったわけでもなく、すごく絶妙な距離感の中で「こうだよね」「ここはこうなんじゃない」という対話が深いレベルでやれて、ちゃんとアウトプットされる。
そのスピード感と距離感が自然にできたのは、やっぱり10年間の坂田くんとの関係があったからじゃないかな。
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対談は、後編に続きます!
店舗のディテールについて、ディープに語り合います。
後編はこちらから!
坂田裕貴さん
設計事務所を経て、2011年 フリーランスの建築家ユニットHandiHouse projectの活動を開始。「妄想から打ち上げまで」の言葉を掲げ、住み手と共に設計、施工、制作作業を行う参加型の家づくりを行い家の取得プロセスをエンターテイメント化することで、住宅サービスの価値を広げた。現在はHandiHouse projectの活動に区切りをつけ、建築設計に従事。植物好きが高じてa.d.p(anhelo de plantas = スペイン語で植物へのあこがれの頭文字)と称した建築設計事務所を構え、住宅や商業空間など建築・内装設計を行う。プロジェクトの背景にあるルールが、環境からの影響を受け止めたカタチを想像することで、生き生きとした空間作りを目指す。
https://www.adp-ad.jp/
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