【Minimalカルチャー対談】365日オーナー・杉窪章匡さん(前編)「美味しいの中にすべてが含まれている」

2023.05.16 #Minimal's Story & Report

渋谷区・富ヶ谷は、「食の最先端」とも呼べる個人店やスタートアップが集まる街です。

同地にて1年違いで創業し、10年を迎えるセレクトショップベーカリー「365日」(ウルトラキッチン株式会社)とMinimal。

ウルトラキッチン代表の杉窪章匡(すぎくぼ・あきまさ)さんと、ゆっくりお互いのビジョンや運営について語り合いました。全3回でお届けします。

富ヶ谷の街とお客さんに馴染んでいる

山下
Minimal創業の約1年前に「365日」は開業していますね。当時僕も行列に並んで食べました。

杉窪さん
僕はMinimalの開業はもちろん知っていましたが、あえて数年間は行かないようにしてたんです。最初はオペレーションを回すのも大変だろうと思ったので。そんな状態で批評するみたいになるのもあんまり好きではなくて、落ち着いてから行こうと。

山下
でもMinimalのことは知っていただいていたんですね。

杉窪さん
もちろん。

山下
嬉しいです。最初の印象はいかがでしたか?

杉窪さん
それはもう、じゃりじゃりしてるっていう。

Minimalの板チョコレートは、カカオ本来の風味を活かす独自製法でザクザクした食感が特徴

山下
あれ、ダメでした?(笑)

杉窪さん
いや全然ダメではなくて、なるほどこういう切り口かという感じ。さすがだなと思いました。よく海外など世界中を旅行して食べ歩いていたので、まあこういうのもあるんだなと。

山下
僕が365日に行って思ったのは、ちょっと後解釈が入っているんですけど、いい意味で“普通に”美味しいなと。この街に馴染んでいるというか。当時は自分の解像度が高くなかったんですけど、日常で食べるのも、ハレの日に持っていくのも、ちゃんと設計されている味で、奇を衒ってなくて「毎日食べたいパン=365日」というコンセプトもしっかりしていて、その設計の完成度の高さに驚きました。

ふつうにイメージされる“職人”は、三流の職人!?

杉窪さん
最近ようやく言語化できるようになったんですけど、やっぱり「専門性」と「大衆性」なんですよね。だいたいのお店はどちらかしかないんですけど、僕はどちらもやりたかったので。

山下
それは「職人」と「経営」という言葉に置き換えられますか。

杉窪さん
うん。ただ皆さんが「職人」に持っているイメージって「三流の職人」なんですよね。要するに「頑固な人」が職人だと思ってるじゃないですか?それは三流の職人なんです。

たとえば、僕の地元の輪島塗の職人で、昔のお殿様(前田家)から「重箱を作ってくれ」と言われて突っぱねないですよね。僕らで言えば、富ヶ谷の街の人たちに喜んでもらえるようなものをオーダーされているわけじゃないですか。それをちゃんと自分たちの知識と技術を使って作れるかという勝負していると思っています。それができて初めて一流なんですよね。

山下
なるほど。そういう意味では「マーケティング」という言葉が近いかもしれないですね。「誰に届けるんだっけ?」という目線がちゃんとある。

杉窪さん
365日って、僕が100%持株のオーナーなわけですけど、「僕のもの」じゃないんです。

お店には多い日で900人くらいのお客さんがいらっしゃるんですけど、そしたら1日単位で見ても「900:1」じゃないですか。圧倒的にその900人のためのお店だと思うんですよ。

僕は「いい材料を使って全部手作りする」というのがやりたいことなんです。それをやり続けるために、お客さんに喜んでもらえるようにしたいんですね。

ビジョンは、世界平和。

山下
Minimalでは「チョコレートを新しくする」というビジョンを掲げていますが、杉窪さんは「世界平和」と仰ってますよね。どんなビジョンなのでしょうか?

杉窪さん
僕がいつも言ってるのは、一人で「世界平和」をするわけじゃなくて、「大人ひとりひとりがすべての行いを子供たちに一部始終見せられるような生き方をしていたら、世界平和になる」ってことなんです。

たとえば僕は製パン理論の本を出したりして、ベーカリー業界で言うとけっこうトップクラスなんです。そうすると「この人に学びたい」って入社希望者が集まるんですけど、そこでさらに良い材料を使って、全部手作りで、なおかつ働き方をホワイト化して経営していたら、言い訳できなくなっちゃうんですよ。

そして、そういう考え方で独立する人が増えるとコミュニティが増えてきて、そうすると世界が平和になっていくという。

以前ホリエモンと話したとき、彼はオーガニックについて、「健康のために良い材料を使ってるんでしょ?」という認識を持っていました。一方で僕は「美味しい」という話をしているんです。

身体にも良いかもしれないけれど、明らかに良い素材は美味しさが違う。

山下
「美味しいの中にすべてが含まれる」っていう感覚ですね。

杉窪さん
そうですそうです。そこを「健康にいいです!どうぞ!」みたいな感じではやってないんですよ。そのやり方をすると「健康でしか売れない店」になるわけです。そうではなくて美味しさでお客さんに買ってもらって、結果、身体も普通のものを食べてるよりはいいよねという感じがいいと思って。

365日のパン。上から時計回りに、もっちり食感で小麦の甘さと旨味を存分にしめる「ソンプルサン」、契約農家から仕入れている新鮮な野菜がたっぷり載った「ハタケ」、そして一番人気の「クロッカンショコラ」。

山下
これ、たぶんさっきの「大衆性」の話ともつながると思うんですけど、結局「誰にとって美味しいのか」という方向性がちゃんと定まっているんですね。

杉窪さんが目指すのは、すべてを内包していることなんですね。お客さんが美味しいお店を選ぶことで幸せになるし、その美味しさを追求するやり方を学ぶ人が増えれば、倫理性の高いお店が増えていく。そうすると世界全体が平和になっていくっていう。

一粒は虫のために、一粒は鳥のために、最後の一粒を人間のために

山下
今挙げられたポイントのうち、どこが一番の強いこだわりとか優先順位ってあります?

杉窪さん
えっと、じつは僕は「世界は美しい」と思っている人間なんですね。なぜかというと、そこに偽りがないから。たとえば自然界ってバランスよく調和されている世界じゃないですか。調和がとれている世界って、めちゃくちゃ美しいんです。すべてのバランスがとれているからこそ美しい。

山下
だから「どれが一番」ということではないんですね。ウルトラキッチンが目指してるところは、飲食を起点にどれだけ増やしていけるかっていう話なんですか?

杉窪さん
うーん、白黒はっきりつけたいわけでもないんです。たとえば畑作業をしていると、ここに害虫が出るから薬で殺しましょうってやるじゃないですか。そうするとその虫はいなくなるけど、その天敵だった虫が大量発生するんですね。

だから、「みんなが少しずついて、いろんな人がいる世の中で調和がとれている」という考え方なんです。

山下
なるほど。

杉窪さん
農業用語で「三粒に種」という言葉があるのですが、一粒は虫のために、一粒は鳥のために、最後の一粒は人間のために蒔きましょうという考え方で、とても気に入っています。

あとは、ネイティブアメリカンの考え方で、「七代先の子供たちのために何をするか」とか、未来にいい環境を残していこうではなく、今の環境は未来の子供たちから借りているという思想ですね。

世界はどんどん綺麗になっている!?

杉窪さん
多様性の中で「選択肢がある」ことが一番重要なので、少数派でいいんです。一番怖いのは群集心理というか「右向け右」って言われて全員が右を向いちゃうことなので、そうじゃない選択肢や役割を僕がするということです。Minimalもそうなんじゃないかと思いますけど。

山下
そうですね。僕らも完全にマイノリティなので。
……それにしても「世界平和」って言葉だけが一人歩きすると全然伝わらないですよね(笑)。

杉窪さん
うん、ちょっと僕の一発ギャグみたいになってる(笑)。
それで企業理念(クレド)を「私とあなた」にしたんです。「必ず相手もいるし、自分もいるよ」っていう。クッキーがあったとき、奪い合えば足らなくなるし、分け合えば足りるし、譲り合えば余るし。だから、その考え方ひとつで世の中変わるよねという。

山下
今、杉窪さんから見たら、世の中って嫌悪感が起こることばかりなのか、それともけっこう綺麗になってきているのか、どちらですか?

杉窪さん
今、めちゃくちゃ綺麗になってます。めちゃくちゃ綺麗です。

山下
それはどういうところで感じるのですか?


続きは、中編へ。
ビジョンを実現するためのマネジメントについて語り合います。

※中編はこちら! 

 

杉窪章匡さん
1972年、石川県生まれ。両祖父が輪島塗職人という職人家系の血統。24歳でシェフパティシェに就任。2000年渡仏。2つ星「ジャマン」1つ星「ペトロシアン」を経て2002年に帰国。帰国後、数軒のパティスリーでシェフを務め、2013年12月「365日」をオープン。「ジュウニブンベーカリー」など現在首都圏で8店舗を運営。
https://ultrakitchen.jp/

 

※Minimalカルチャー対談、過去の連載はこちら

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