【エンジニアリングディレクター朝日将人の頭の中】vol.3「嗜好品としてのチョコレート」

2023.04.28 #from Staff

創業メンバーの一人であるエンジニアリングディレクター・朝日の視点から、Minimalのものづくりについて日々考えていることをお話しします。
※過去の連載はこちら

ワインを支える、2000年の積み上げ

僕はイタリアでワインを学ぶ中で、ワインの世界が「文化」として根づいていることに感銘を受けました。

ワインには、年ごとに、味にある程度の幅があることを許容するカルチャーがあります。

「今年は当たり年とは言えないけれど、みんな頑張りました」とか「こういう手法を入れて頑張ってみました」みたいなものを喜ぶ文化があって、それを受け手側がしっかり勉強しているから整理できるんですね。

そしてワイン一本50万円みたいな価格が成立する世界なので、ワイン好きな人がパトロン的に支えてきた歴史があります。

もっと言えば、永らくは貴族のものだったし、宗教が支えてきたから2000年近く恐ろしい量の価値を積み上げてきた世界です。

その目線で考えると、チョコレートも宗教から始まってはいますが、「食べるチョコレート」としてはわずか200年のお話です。

ワインと共通する価値観はあるので、そこを掘り下げて価値の積み上げがあれば、きっと2000年続く文化に通じる表現があるはずだと思っています。
それが「嗜好品」ということになっていくのだろうと考えます。

「嗜好品」としてのチョコレートに必要なステップ

 嗜好品という文脈でチョコレートを捉えてもらうには、いくつかの条件やステップがあると考えています。

2000年続く文化に繋げるための方法論として、MinimalではFRUITYやNUTTYなどフレーバーラインを用いて「こういうチョコレートもありますよ」「こういう選び方もありますよ」ということを提示しています。

「これがいい」とか「どこそこの産地は好みではない」ではなく、「今年のカカオはこういう出来映えなので、こういう手法で造りました」というようなワインの考え方を参考にしています。

次に、お客さん自身が共感できる「自分もやってみたい」「これ、面白いね」と感じるための働きかけが必要だと思います。

例えば「頭を使って食べる」ことが楽しい、かっこいいと憧れられる価値観でしょうか。

かっこよくチョコレートを食べて熱く語れる大人がいるか、自分もやってみたいと思ってもらえているかというと、今はまだまだなので、Minimalでは、「熱く語る」ということを比較的熱心にやっています。

まず面白がって語る人を増やしたいですね。

ワインには当たり前にいる「ソムリエ」や、コーヒーにも基本的には存在している「バリスタ」という職種は大きいと思います。

専門家としてお客さんに接する立場の人間が、チョコレートにはいないですよね。

Minimalで現在取り組んでいることで言うと、店舗でカカオの個性を体験してもらい、言語化していくことです。

体験することと、体験を言語化すること。それによって、記憶にとどめていってもらい、「自分にとって都合が良いもの、好みに合ったものを選んでいく」ことをしてもらう。
ここが次のステップであると考えます。

ここまでできると、「おやつではないチョコレートの楽しみ方」というものが出てきますね。

嗜好品としてのチョコレートは、人のコミュニケーションの間にあるもの

チョコレート(カカオ)の歴史を遡ると「おやつ」ではなく、古代の南米大陸には不老長寿を願ったエネルギー補給の「薬」として飲まれていた長い時間がありました。

大航海時代にはヨーロッパに渡ってくるのですが、パトロン文化によって渡来したので、まずは王族や特権階級の神官たちに広まりました。

そこで若干のカフェインを含んだ興奮剤的な効用から、ちょっとした秘密を共有する際に、お酒のように口を滑らかにする側面に注目されたのだと想像します。

そこから「コーヒーハウス」※みたいな文化が生まれてきます。
※裕福な人々や政治関係者が出入りする特別な社交場

英国の「ティーブレイク」や「アフタヌーンティー」の文化はもともと、千利休の茶道(Tea Ceremony)に触発されて、人をもてなす、仲間に招く場としてイギリス流に解釈した経緯があるという説があります。

そこでは単純な品質だけで語られる茶だけでなく、季節の話題を盛り込むような、あるいは茶のある側面に光を当てるような茶請けを用意します。

会議のような意味のある話をしようとか、たくらみをしようではなくて、「自分たちが同じ種類の人間だよね」という確認をする場として期待される文化だと理解しています。

その場に、おいしいまずいの単純な飲み物や水ではないものーー食べ物と薬の間にあるものーーがあることで、特別な関係性を取り持ち、仲間やコミュニティを作っていく機能にも有効だったのではないかと想像します。

人とのコミュニケーションを取り持つものとして、お酒のような機能をもつを存在が「嗜好品」という理解です。

今は、お酒も少し敬遠されがちな世の中になってきたこともあり、ちょっと特別な「食品と薬の間にある」「嗜好品としてのチョコレート」に可能性を感じます。

美味しいものにたどり着くサロンを主宰するように

薬を扱うのであれば、医師や薬剤師のように専門知識が必要ですね。食品だって管理栄養士や調理師のようなプロがいます。

その間にある嗜好品の分野にもそういうプロがいて然るべきだと思います。

先ほどもお話ししたように、ワインの「ソムリエ」や、コーヒーの「バリスタ」はそれに当たります。

そもそもワインにアプローチしたいという感情になったとき、ワイン一つを買うのに出かけて、気難しそうな人間にわざわざ話を聞かなければいけないとしたら、誰もワインなんて買わないと思います。

そうではなくて、専門能力は当然に身につけた上で、尋ねるのが、あるいは調べるのが楽しい場やコミュニケーションが必要だと考えます。

「Minimalを使ってくれたら美味しいものにたどり着けますよ」という、「サロン」を主宰するようなコミュニケーションがふさわしいと思います。

このためには、お客さんに提案するための能力(その提案の根拠と説得力)を増すために、背景の知識を身に着け、かつ楽しい体験を演出する能力を磨く必要があります。

Minimalでは「チョコレートを新しくする」というミッションを掲げている中で、まずやるべきことは「新しいチョコレートにおけるソムリエ能力」を確立することが第一歩かなと思います。

※連載Vol.4はこちら

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