新たなカルチャーを生み出す方々にお話をお伺いする、Minimal代表・山下の対談企画。
第3回は、石川県の九谷焼「上出長右衛門窯(かみでちょうえもんがま)」六代目・上出惠悟(かみで・けいご)さん。
後編では、九谷焼を現代に蘇らせるアイデアや「人の手で造ることの価値」について語り合います。
※前編はこちら
業界のタブーに挑戦した「KUTANI SEAL」
上出さん
一つの転機になったのは、「KUTANI SEAL」という転写のブランドを始めたことでした。
九谷焼には職人が筆で絵を描く「絵付」と、絵柄をプリントする「転写」があるのですが、当然価格が全然違うわけです。
転写もすごい技術なので、普通の人だと見分けがつかないです。
でも、その絵付と転写が売り場に並ぶと、表示義務もないのでお客さんはわからないし、そもそも転写のことも知らない。
結果、手描きの絵付が「高い」と言われちゃうんです。
そこをちゃんとお客さんに区別して伝えたいなと思っても僕が同業者の製品を指して「あれは転写です」とかって言ってしまうのは、それこそタブー。
そんな時に自分たちで転写のブランドを作ってしまえば「ばらし放題」だと気づいたんですよね。
山下
なるほど。
上出さん
「シール」という一言で転写とわかるブランド名で、最初は転写紙を自由に貼って自分の器をつくるワークショップを開催しました。
あらかじめ印刷されたシールを貼って焼けば、クオリティの高いものを焼けるので、シールを貼るワークショップをあちこちでやったらめちゃくちゃ好評でした。
当時はお客さんに転写紙を見せるのはあり得ないことだったと思うんですよ。
ワークショップからだんだんプロダクトとしても商売になるようになってきました。
山下
それは面白い。
そこから今の活動につながるところで言うと、上出さんが絵を描くし、職人さんがそれを造るし、同級生が一緒にやってたりするじゃないですか。
上出さん
そうそう。借金の多い窯元をどうしていこうかと知人に相談したときに、別会社を興して決算を分けようということになり、「上出瓷藝(かみでしげい)」を立ち上げました。
「長右衛門窯の商品」を「上出瓷藝が売る」ようにして。
山下
機能分化したんですね。
上出さん
そうすると、問屋さんに卸すときも掛け率の交渉をしやすくなるんです。
最初は夫婦で始めて、後から同級生だった友達にも加わってもらいました。
山下
作家だったら作りたいものを作っていれば済んだかもしれないのに、すごいですね。
もうやるしかない!って感じでしたか。
上出さん
うん。やるしかないって感じ。でもやっぱり30代はけっこう闇でしたね(苦笑)。
その当時に新鮮に思っていた人たちの感覚を、現代に呼び戻す
上出さん
上出長右衛門窯でずっと造っている「千石船の急須」という、かわいい形の急須があったんですけど、なんで売れないのかな?と思っていました。
「面白いのになあ」と。それで「タイヤ」を付けてみたんですね。
そうすると「これは面白い形だったんだ!」って気づいてもらえて、この急須が売れようになるって思ったんですけど、「タイヤのついてる方の急須が欲しい!」となってしまって、失敗でしたね(笑)
山下
おもしろいんですけどね。新しいものだけが注目されてしまったんですね。
昔から使われている絵柄の現代風アレンジもされていますよね?
上出さん
「笛吹」っていう400年前の中国の染付の絵柄に、笛ではなくサックスを持たせたり、落書きのスプレーをもたせるアレンジとかですね。
山下
本当おもしろいですよね。古典の本質的なところは変えずに、時代に合わせていくんですね。
上出さん
その当時の人たちの思いを残しながら。
古典って言っても堅苦しいものではなく、もっと新鮮な気持ちで楽しんでやってたところがあると思うんですよ。その自由さを今の形で表そうと。
山下
それは僕らも一緒ですね。
「チョコレートは口溶けなめらか」って誰も決めてないんですよ。むしろ過去に縛られているのは造り手のほうだったりするんです。
このサックスのアレンジを思いついたきっかけとかあるんですか?
上出さん
これは、知り合いでトロンボーン奏者とサックス奏者の人の結婚式があったんですよ。
その引き出物を作ってほしいと頼まれて、笛吹をトロンボーンとサックスに変えたら面白いかなと思って。
山下
へえ。ご縁ですね。
上出さん
磁器って日本ではまだ400年くらいの歴史しかなくて、わりと新しいものだと思ってるんです。
その当時は白い焼き物にブルーの絵が書いてあって、絵や文様が描いてあってっていうのが最先端の時代で、その新鮮に思っていた人たちの感覚を、現代に呼び戻せるんじゃないかなと思ってやってますね。
ずっとそうやって伝統のアレンジをやって来たんですけど、そこからさらに最近は自分たちで新しいものを造っていくということで、マグカップや招き猫など色々と造り始めました。
「時間をかけて造っている」ところが「価値」に
上出さん
「上出瓷藝」という会社では、「長右衛門窯」と「KUTANI SEAL」という2つのラインを取り扱う形になるんですけど、小売店に卸す時はどちらかだけにしてほしいとお願いしていて。
つまり、「絵付」と「転写」のラインを同じ売り場に並べないでほしいと思っているんです。
山下
それはどうしてですか?
上出さん
僕の中ではまったくの別物だと思っているけど、お店の方がその違いをお客さんに伝えるのは難しいと感じるからです。
器に手で描くということと、あらかじめ印刷されたものを器に貼るということは、根本的に違うものだと思っています。
でもどちらも九谷焼ですし、それぞれが歴史や技術に誇りを持って作っている。
だから転写が悪いとかそういうことではなく、伝え方がとても大事だと思うんです。
山下
わかります。
僕らもチョコレートを人の手で1枚ずつ造っているわけですけど、大量生産でスーパーに並べるチョコレートとはやっぱり同じものではないんじゃないかと。
上出さん
その違いをわかるように啓蒙していくということですよね。
その上で私たちは「時間をかけて造っている」ところが「価値」なんだと伝えていきたい。
山下
面白いですね。
身体感覚で無意識でも「これ、いいよな」って感じるものって、だいたい人の手間がかかってるんですよね。
それが伝わるようなものづくりをしたいです。
僕、「食」が好きなのにはそれもあって、たとえば日本酒や料理で、食べた時に「なんかこれ、ちょっと気配が違うな」みたいなものってあるんですよ。
だいたいそういうものを調べてみると、作ってる人がクレイジーなことをやってたりするんです(笑)。
上出さん
うん。そういう話になってきますよね。
「人の気配」とか「何かが宿っているんじゃないか」とか、やっぱり思いを込めて造ってるので、そこを信じたいっていうか。
そういう造り手の「気持ち」がやっぱり残ってほしいなというのはありますね。
火入れはマジック!
山下
Minimalでは火入れ(焙煎)という工程にこだわっているんですけど、九谷焼も最後に焼いて仕上げますよね。
「焼く」という工程についてはどう考えていますか?
上出さん
「マジックがかかる」って思っていますね。僕らがいくら粘土を捏ねくり回しても、それだけでは永遠に磁器にならないので。窯って偉大だなって思いますね。
山下
火入れは完璧にコントロールはできないんですよね。
オーブンの中ではどうしても火の当たる場所の違いもあるし、たとえば温度を120度から130度に上げたとき、じつは121度から129度のグラデーションがいい影響を与えている可能性もあるから、すべてのことは分からないんですね。
上出さん
そう。本当に予期しないことがめっちゃ起こるし、究極は原因解明できないケースが多いんですよ。
次に同じ条件で焼いたら成功するとか失敗するとか平気でやってくれるんで。
Minimalでは焼くときに祈ったりしますか?
山下
祈ったりはしないね。
上出さん
僕らは祈るんです。やっぱり元は「神事」なんですよね。
僕、さっき(前編)、窯元に戻って最初に「見せ方を変える」ことをしたって言ったんですけど、本当に最初にやったのは「神棚を作ってお供えする」ことでした。
山下
そうなんですね。
上出さん
やっぱり祈りって大事だなと思うし、創作の源だと思っているし。すごく非科学的な話になっちゃうんですけど。
人を立ち止まらせるチョコレート
山下
最後に、上出さんから見てMinimalってどう見えていますか?
上出さん
プロダクトが純粋においしいし、なんか「お!」って思わせてくれるじゃないですか。
「流れていかない」というか「素通りさせない」というか。絵画でも「人を立ち止まらせる画」ってあるんですけど、そんな感じです。
山下
ありがたいです。
上出さん
食べた時にやっぱり「普通じゃない」っていうか「お!」ってなるのは、「共感」とはまた違って、「嬉しい」っていう感情ですかね。
山下さんが仲良くしてくれるのも嬉しいし、一人でうちの「窯まつり」に来てくれるのも嬉しいんです(笑)。
山下
次回も「窯まつり」に行くしかないじゃないですか(笑)
上出惠悟さん
1981年石川県生まれ。上出長右衛門窯6六代目当主。東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。明治12年(1879年)創業の窯元の企画・作品発表・デザインに携わる。2013年合同会社上出瓷藝(かみでしげい)設立を機に本格的に窯の経営に従事。主な仕事として、伝統柄をアレンジした「笛吹」、スペイン人デザイナーを招聘した「JAIME HAYON×KUTANI CHOEMON」シリーズ、九谷焼の転写技術を活かした「KUTANI SEAL」など。
http://www.choemon.com