Minimalは「カカオ豆の個性を最大限に活かすためのものづくりを追究し、“新しい”チョコレートを生み出すこと」をミッションに、2014年に産声を上げました。
創業メンバーの一人であり、エンジニアリングディレクター・朝日の視点から、Minimalのものづくり思想について日々考えていることをお届けします。
第一回は、素材であるカカオを活かすことについて掘り下げていきます。
素材本位の料理とは?ソース文化との比較
Minimalでは自分たちの製法を、余計なものは極力加えずにカカオの個性を引き出すことから、「引き算のチョコレート」と表現しています。個人的には「素材本位のチョコレート」という表現がしっくりきます。
Minimalの板チョコレートは「カカオ」と「砂糖」のみで造りますので、素材とは基本的に「カカオ」のことを指します。
今回は、「素材本位」という造り方に至った僕自身のキャリアと経験をお話しさせていただきます。
僕はコックを目指し、20代半ばでイタリアに赴きました。
そこで料理を学ぶわけですが、日本で思い浮かべる「イタリアン」と、現地の料理は少し違いました。
基本的に、ギリシャあたりに由来する地中海料理のイメージが近いのですが、素材の性格を善しとして、あまり加工しない性質を感じました。
僕の分類では、フレンチや中華料理は「ソース文化」と捉えています。バターや卵や油などで作ったソースをメインに据えた料理で、ソースはひとつの完成品であり、魚に用いても肉に合わせても主たるキャラクターは変わりません。ソースそのものを楽しめる料理です。
たとえば焼いた魚に、クリームソースをかければクリームソースの味、トマトソースをかければトマトソースの味として、ソースそのものを楽しめる料理です。
一方、素材本位というのは、魚にスパイスや塩胡椒を使って手助けをするくらいで、メインは魚の風味を楽しむ料理です。
チョコレートで言えば、カカオが主役になるため、砂糖はお菓子として成立するために最低限入れる程度にし、カカオの味を楽しむのが「素材本位」という考え方です。
イタリアで学んだ「素材本位」でシンプルな料理
現地での料理は「素材を大事にするシンプルな料理」なのですが、もし皆さんにそのイメージがあまりないとすれば、国外に出ていって受け入れられたものとのギャップがあるのだと思います。
たとえば和食も、世界に出て通用しているものは寿司や天ぷらなのですが、日本国内でイメージされる和食とは懐石のような料理ですよね。
イタリアも日本も、元々は「手近にあったもので素材をおいしくしていた」という点では共通していると思いますが、僕の学んだ料理はもっとシンプルなつくりです。
僕がイタリアに渡ったのは、当地、バイクのデザインが好きだったなど偶然によるところが大きいのですが、20代半ばではなくもっと若ければ和食を志していたと思います。和食は修業10年と言われる世界で、僕が始めるには遅すぎると考えました。
それでも、イタリアで素材本位の料理に親しんだことが、次の出会いにつながります。
ワインから始まった、チョコレートの39種の評価軸
イタリア時代に、料理とともに学んだものがワインでした。
1年かけてソムリエ資格をとるための研修をし、このワインの経験と知識も今のチョコレートづくりの基礎となりました。
ワインもまた、ブドウという「素材」に依存した飲料です。
たとえば、ワインを飲んで「素材の味が表れているね」というのは、褒めるワードになるのですが、まさにそのような評価する世界であるわけです。
このワインの評価の概念は、チョコレートを始めるときのベースになりました。
Minimalでは今、チョコレートのフレーバー評価軸を39種に分類しています。
これはココアオブエクセレンスやスペシャルティコーヒー協会のフレーバーホイールを参考にしているのですが、スペシャルティコーヒーのベースは、じつはワインのフレーバーホイールからきています。
つまりワインとなじみ深い領域で、チョコレートの味も評価できるのです。
素材本位とは、唯一無二を楽しむこと
チョコレートとの決定的な出会いは、イタリアに滞在した最後の年に食品展示会に立ち寄ったときでした。
「モディカ・チョコレート(Cioccolato di Modica)」という古代製法のチョコレートを初めて知りました。
ザリザリした砂糖を使ったチョコレートで、今のMinimalとは少し違うのですが、非常にジューシーな味わいのチョコレートで、「こんなに果物みたいなチョコレートがあるのか!」と大変衝撃を受けました。
今までに味わったことのない感覚で、カカオという素材に強く惹かれました。
カカオという植物のタネが、フルーツやナッツやスパイスの風味を持っていて、ワインの世界にも通じる魅力がある。こういう世界があるのなら面白いと感じました。
僕がカカオが面白いと思う理由は、一つ一つのカカオが唯一無二のテロワールと呼ぶべきものを持つところです。
同じ産地のカカオでも風味は毎回変わりますし、何かのパーツを持ち寄って足し算でこの味を作れるかというと、とてもそうは思えないのです。
素材本位の面白さというのは、そういうところだと思います。
やがて帰国後に、少しずつチョコレートの世界に足を踏み入れていくことになるのですが、イタリア時代の学びや経験も含め、次回にまたお話しさせていただきます。
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