2021年1月15日、生チョコレート -新政 No.6 X-type 2019-」の発売記念トークライブを開催しました。出演は、新政酒造8代目 佐藤祐輔氏とMinimal代表 山下。
今回のJOURNALでは、2時間にわたるインスタライブでの対談の模様の一部をお届けします。
ここでしか語られなかった、今回のコラボレーションのきっかけや背景、開発秘話などを語ります。ものづくりをする二人の目指す姿など、赤裸々トークをお楽しみください。
なお、本JOURNALの最後に【追加製造】の最新情報を記載しております。ぜひ最後までお付き合いください。
▼目次
1.互いに対する知見が深まったコラボレーション
2.両者に共通する、“素材を大事にしていること”を表現したパッケージデザイン
3.コラボレーションのきっかけは、Minimalの社内講演会
4.哲学や美意識を持った新政のお酒造りから感じる、“現代アート”感
5.おいしければ何をしたっていいわけではない。大事なのは”スタイル”があること
6.「No.6」10周年!Minimalも記念コラボ!?
7.佐藤さん「“No.6”は向いてねぇだろうと、はじめは思った」
8.たどり着いたのは”食べるNo.6”というコンセプト
9.お互いを引き立てあうために。1%単位でチョコレートの配分を調整
10.佐藤さん「中盤から、後半にかけての口当たりが確かに“No.6”」
11.別ジャンルとのコラボレーションでチョコレートの表現の幅が広がる
12.山下「10人中1人だけに突き刺さる、みたいなものづくりで突き進めばいいんだと思えた」
13.追加製造が決定しました!
1.互いに対する知見が深まったコラボレーション
─ 山下
皆さんこんばんは。インスタライブを始めていきます。
佐藤さんこんばんは。
─ 佐藤
こんばんは。
─ 山下
よろしくお願いします。
前回インスタライブしてから結構経ちましたね。
─ 佐藤
何月でしたっけ?
─ 山下
20年5月ですよ。
─ 佐藤
えー、そんな前でしたっけ?
─ 山下
はい、コロナ禍で初めて緊急事態宣言入ってちょっと経ってからだった気がするから、 5月ぐらいだと思います。
─ 佐藤
早いですね。
─ 山下
去年は結構大変な時期でしたよね。
─ 佐藤
まいったね、もう半年も経ったか。つい先日のような気がする。
─ 山下
わかります。僕も去年一年はあんま記憶にない。
今日の趣旨は先日佐藤さん(新政酒造)の「No.6 X-type(2019)」を使った生チョコをつくらせていただきました。こういうパッケージ (カメラに向かってパッケージを見せる)の。
佐藤さん達にも色々協力いただききながらつくったものなので、今日は皆さんに裏側をお伝え出来たらと思います。
まずは乾杯しますか。
贅沢にもこれを(No.6 X-type 2019)買わせていただきました。
─ 佐藤
お疲れ様です。今日はよろしくお願いします。
─ 山下
うまいっすね!
─ 佐藤
チョコレートに入っているよね、この味がしっかりと。
─ 山下
僕らは(今回のコラボレーションを)やらせてもらってめちゃめちゃよかったです。
─ 佐藤
うん、僕も勉強になりましたよ。
─ 山下
ここから話をしていくのですが、本当にやらせてもらって良かったです 。
僕ら自身のものづくりをもう1回見直す機会でしたり、自分達がもう一歩前進するっていうとおこがましいのですが、そういう機会になったなと本当に思っています 。
─ 佐藤
うん、そう言っていただけると光栄ですよね。僕はこれでチョコレートをいっぱい食べて、結構チョコレートの知見も深まりました。これ(チョコ)も(お酒と)同じ発酵食品ですからね 。
─ 山下
いやー、佐藤さんにも結構たくさんいろんな試作を食べてもらいましたもんね。
─ 佐藤
食べましたよね、いろいろね。
─ 山下
ちょっと嫌がらせかっていうくらいたくさん送っちゃいましたね。(笑)
─ 佐藤
試作段階からこれはうまかったですね。
─ 山下
いやー、本当にいろいろやりましたね。
2.両者に共通する、“素材を大事にしていること”を表現したパッケージデザイン
─ 山下
ちょっとコンセプト的な話をします。皆さんに先にお伝えしておくと(多くの)生チョコレートってチョコレートが主役でそのなかに日本酒が入っていますが、今回はどちらかと言うと「No.6」の繊細な味わいを生チョコレートに閉じ込めるかという“食べる日本酒”(というコンセプト)にできないかと思って試作を重ねました。
─ 山下
(パッケージの)デザインの説明をすると、当然ミニマルと新政酒造のロゴがあるのですけど、この真ん中(のマーク)が“素材を発酵させていく”ってことデザインで表して、新政側は稲穂で米、Minimal側がカカオ。カカオとお米って素材を、シンプルに酵母の力によって発酵させる。
後ろにある曼荼羅(まんだら)の模様見えますかね?これはですね、新政さんのそのホームページにある、これメインビジュアルって言えばいいんですかね?
─ 佐藤
ええ、コーポレートマークです。
山下
僕たちもこのマークがすごく好きで、そこを使わせていただきながら「素材をお互い大切にしているところ(ブランド)がコラボレーションしました」、というのが今回デザインになっていますね。
─ 佐藤
このカカオとお米が混ざったデザインでいいですね。
─ 山下
ありがとうございます。
僕らはこんなにきちんと木の箱を使わせてもらうって、やっぱりチョコレートは西洋のものなのでなかなかないのですけど、これはすごく嬉しかったですよね。
─ 佐藤
いいですねー。木に入れていただいてね 。
─ 山下
いやいや、新政とやっているからこそ、僕らはこのようなデザインができたと思います。
3.コラボレーションのきっかけは、Minimalの社内講演会
─ 山下
ちょっと経緯から話していきますか。
─ 佐藤
そうですね。
─ 山下
もともと、最初(のきっかけ)は、さっき申し上げた5月のインスタライブを行った時に結構深い話になりましたよね?
─ 佐藤
何を話したかほぼ覚えてないのだけど(笑)
─ 山下
結構お酒を飲んだんですよ、2人とも。(笑)
確か2時間ぐらい(インスタライブを)やったんですよ。
─ 佐藤
そう、なんか(時間を)延長したよね。
─ 山下
あの時にお互いちょっと酔っ払った中というのもあるんですけど、今年はコラボ商品作りたいですよねというのが多分発端ですね。
─ 佐藤
ああ、そうかそうか、そのようなことをそこで話していたっけ?
─ 山下
そこが最初ですけど、その時(インスタライブ)から具体的に決まっていったわけではなくて。(実は最終的にやらせてくださいとお願いしたのは、下記の創業記念の社員向け講演会でした)
会社の創業記念日が8月にあるんですけど、今回はコロナなのでZOOMでそこにゲストをお呼びして、いろいろ話を聞く機会に、尊敬するものづくりの先輩たちをお呼びすることが多いんです。
昨年は佐藤さんにお願いしてほんと贅沢ですけど、うちの社員向けに佐藤さんたちの歩んできた歴史とか、どういう風なことをものづくりで大事にしているか話していただいたんですよね。
─ 佐藤
Minimalさんのために話したね。
─ 山下
うちのスタッフみんなすごく感動していました。
佐藤さんたちが先祖代々受け継いできた歴史と、どの様にものづくりをさらに進化させていこうかと言うことの背景にある奥深さの一端を学ばせてもらいました。大前提としておいしいものを作る事の先に、日本酒の歴史を背負っているという誇りがあって、なんというんですかね、纏う雰囲気がすごくて、なんかこうぐっとくるものがありまして。
僕たちもこういうものづくりできたらいいなとか、僕たちの力量でできるかはいったん置いといて、多分新政さんと何かやれれば、ものすごく面白いことが起こるのではって、真摯に感じて、それでオーダーしたのが一番の経緯だと思います。
─ 佐藤
そっか、社員さま向けに話をしてまた改めて興味をもってくれたんだね。
4.哲学や美意識を持った新政のお酒造りから感じる、“現代アート”感
─ 山下
元からすごい(新政に)興味があったんですけど、(講演を聞いて)より理解が深まったっていうのはおこがましいのですが…
佐藤さんは皆さんの前で言われると恥ずかしいかもしれないけど、講演の時に(佐藤さんがおっしゃっていた)「おいしいってこともすごく大事だけど、それ以上に自分たちが日本酒の歴史とかそういうものを背負いながら、新しい時代にどういうことを残して、広げていくかみたいなことをやっぱり考えないといけない。」
多分インスタライブの最後にもそういうことをおっしゃっていました。
その言葉の重さとか深さ、覚悟が僕は純粋にかっこいいなと思いましたし、そのために今木桶でしたっけ?
6号酵母が見つかった時代の、昔の時代の作り方にすべて戻して。古い時代から学び、そこに哲学や美意識をもって進化させているのが、僕は現代アートぽいなと思いました。
─ 佐藤
あー
─ 山下
現代アートって今の時代を自分たちなりに切り取ってそれを解釈して表現していく。佐藤さん達って後ろに背負っているものがちゃんとあって、それを自分たちなりの美意識と哲学をもちながら、日本酒が世界に羽ばたいていくところまでみて、未来に向けてどういうメッセージを出せばいいかということをすごく考えているなと。講演で2時間ぐらい話してくれましたよね?
─ 佐藤
確かに、それくらいの時間をかけて話したね。
─ 山下
僕はあれ(講演)を聞いたときに、こういうレベルでものづくりをしているからこそ、おいしいお酒が出来たり、すごく熱烈なファンがいるものづくりができるんだなと思いました。
5.おいしければ何をしたっていいわけではない。大事なのは”スタイル”があること
─ 佐藤
ありがたいです、本当に。
─ 山下
ちょっと褒めすぎですか?(笑)
─ 佐藤
これは褒め過ぎかな、恥ずかしいね。(笑)
まあMinimalもそういうスタイルを大事にしている会社だから。
─ 山下
まだ僕らは歴史の浅い会社ですけど、皆さんみたいにものづくりができるようになりたいなと思いながら結構真面目にやっているつもりです。
─ 佐藤
まあ、でも会社の歴史が浅くても、やっぱり背負っているものがきちっと裏付けされているものに基づいているスタイルであれば会社の年は関係ないわけだから。
うん、そういう意味ではMinimalのスタイルがあって、おいしさを追及しているのであって、おいしければ何をしたっていいってわけではないじゃないですか?
やっぱり我々はスタイルがあってその中に表現するから感動が生まれるのであって。
スタイルだよね、大事なことは。
─ 山下
間違いないですね。
そういう意味で言うと素材、お米やカカオとかっていうものをシンプルに発酵させて表現するっていうと、おこがましいですけど、僕らの作っているチョコレートと日本酒って工程とかも近いところがあるなと思いました。
佐藤
うん、近い近い、そう結構近いね。乳酸発酵させてからのスタートなど同じだもんね。日本酒の生酛だね。
─ 山下
本当に。僕は新政(酒造)のお酒を飲んだ時、最初に佐藤さんのこと知らなくて買った時に思ったのは、乳酸ということまではわからなかったのですけど…。乳酸菌などが出している酸をこれだけおいしく日本酒に乗せているのが衝撃だったというのは覚えていますよ。
─ 佐藤
そう言っていただけるとね。ものづくりやられている方とかシェフの方たちが、パッと深いところを直感的にね、そのようなことをわかってくれるから。山下さんも多分そこらへん直感的にわかるんでしょうね。
─ 山下
感動しました。実は僕日本酒ってあまり飲まなかったんですよね。お酒好きなんですけど。
─ 佐藤
そうなんだ。
─ 山下
新政を飲んだ時とか、同じように前衛的なことをやられている日本酒を飲んだ時に、「こんなに多様なんだ!」というとあれですけど、自分の思っていた日本酒観ともまた違う広がりがあって。どっちが良いとか悪いではないですが、広がったというのがすごくありましたね。
─ 佐藤
うん、そうですね。最近はいろいろと多様性のある酒がどんどん出ているから、飲んでいておもしろいですね、とっても。
6.「No.6」10周年!Minimalも記念コラボレーション!?
─ 山下
今年で「No.6」は10年ですか?10周年?
─ 佐藤
10周年、そう。
─ 山下
おめでとうございます!
─ 佐藤
ありがとうございます。10年ですよ、もう。
─ 山下
やっぱ全然違います?最初の1年目と今10年目って?
─ 佐藤
あー、ちょうど10年前って東日本大震災があったんだよ。そこから10年たってコロナでしょ?
スタートした時と10周年記念の年に災害があって大変だなって
─ 山下
ある意味忘れられない年になりますね。
─ 佐藤
そう、そうなんだよね。
─ 山下
それはすごいなー、その二つをちゃんと乗り越えて前に進んでいるということですもんね。
─ 佐藤
まあ今回10周年記念で特殊な企画をやるんだけどね。コロナの時期で逆によかったんじゃないかな。ムードがあまりよくないなか、日本酒で皆さんに面白い話題を提供できるから。
─ 山下
みんな絶対待っていますよ!
佐藤
「No.6」でちょっと楽しい、まぁ大きなイベントはできないですけど、いろんなクリエイターさん6人とコラボレーションを進めています。
ボトルをデザインしてもらっていて、ポップアップストアで販売させていただく予定です。
各作品に連動してオリジナルデザインのポスターとかグッズ作っていて楽しいんですよ。
─ 山下
ちなみに言える範囲でいいのですが、ポップアップストアはどこでやるんですか?
─ 佐藤
1回目は渋谷のPARCOさんの1階にあるディスカバージャパンさんというところを借りようかなと思っていて。
─ 山下
うちの店めっちゃ近いですよ。
─ 佐藤
近い?
─ 山下
歩いて行けます。じゃあその時に僕らも生チョコ作って、限定そこだけでとかやりたいな。
※補足:インスタライブ当時の仮定の話のため、実際には行いません。
─ 佐藤
でもあれだもん(2021年)2月の末だもん、間に合わなくない?
─ 山下
あー、2月かー。(間に合いません)
─ 佐藤
渋谷のパルコは2月の末だけど、4月、6月、10月もやるからどこかで。
─ 山下
もしOKであれば10周年のお祝いにぜひ。
─ 佐藤
京都でもやるかも。
─ 山下
へー、いいですねー、全国に(ファン)がいるから皆さん待ちわびているんじゃないですか?
─ 佐藤
そうね、こんな時だからね。楽しみを皆さんと分かち合いたいなと思っています。
─ 山下
それいいなー、僕もお客さんとして行きたいと思います。ちょうど2月の末だとバレンタインとホワイトデーのエアポケット(空白期間)だからご褒美をかねて飲みにいきます。
─ 佐藤
あ、そこでは飲めないんですよ。グッズを置かせてもらったりとか、お酒をちょっと売るのかな、特殊なやつ。
7.佐藤さん「“No.6”は向いてはいないだろうと、はじめは思った」
─ 山下
たのしみですねー。
すみません話が脱線したのですが、生チョコの話に戻ります。
今回、生チョコレートの中に当然、「No.6 X-type 2019」をいれさせていただいたんですけど、(日本酒の配合)比率が結構すごいんですよ。一粒当たり、多分20%弱ぐらいは(入っています)。
─ 佐藤
結構入っているよね。
─ 山下
はい、もうすごい贅沢ですけど、「No.6」をせっかくやるんだったら、変な話ですけど原価とか利益とかいったん置いといて、ちゃんとやりたいなって変な癖が出てしまいまして…。あの贅沢に使わせていただきました、すみません。
─ 佐藤
そうだよね。かなり入れているって聞いたもんね。
─ 山下
これ最初のところからいくと、あれですよね?最初、「陽乃鳥」とか。
─ 佐藤
そうなんだよ、「陽乃鳥」が一番楽というかわかりやすいかなと思ったんだけど。「No.6」って結構酸味があるのよ。なんで「No.6」に酸味があるかって理由わかりますか?
─ 山下
これって乳酸じゃないですか?
─ 佐藤
乳酸発酵を強くかけて酸をしっかり際立たせているんだけど、これ生酒でしょ?
─ 山下
ね、僕も生酒ですか?って言おうと思いました。
─ 佐藤
生酒って放っておくとどんどん甘くなるわけ。
─ 山下
うちお店(代々木上原店限定)で新政のお酒を出させていただいているんですけど、(「No.6」の)「S-type」も抜栓してから1週間か2週間置いておくと、めちゃくちゃ甘くなります。
─ 佐藤
そうそう、これ麹の酵素が含まれていて、まあ日本酒の生酒ってそういうもの。で、どんどん甘くなるから、時間たつとバランスが崩れてくるのを防ぐためにもともと酸を高くしているわけ。だからリリース時は結構、酸っぱく感じるんだけど、だんだん甘みが戻っていってそれで生酒としての寿命を長く持たせるために、この酸味がある。
─ 山下
そういうことなんですね。
─ 佐藤
逆にこの酸味がチョコにするときに活きるか不安だったんだよね。だから俺は「No.6」向いてはいないだろうって
はじめは思っていた。
─ 山下
世の中の生チョコに日本酒を入れていますってまあ変な話ですけど、甘さに加えて、クリームを使うのでミルクがめちゃくちゃ強いんですよ。甘さとミルク感が全部マスクしてしまうので日本酒はアルコール感くらいしか残らないものが多くて。
─ 佐藤
そうだよね。ミルクを食べているような感じだもんね。日本酒というか、意味がないじゃん。だいたい一般的なキャッチーなチョコだと酸味って嫌うでしょ?一般的な人って。これ(「No.6」)をぶち込むことによって、お買い上げになられた方がその酸に対して心地よく思えるかな?っていうのが
初めに「No.6」って言われた時にちょっと若干不安だったんだけど。
─ 山下
最初はやっぱ「陽乃鳥」がいいんじゃない?っていう話でしたね。
佐藤
そう、まあ安牌だろって話で「陽乃鳥」がいいんじゃないかって。
─ 山下
正直これ結構大変でした。
─ 佐藤
大変だったでしょう?「亜麻猫」は絶対に勧められないって思った俺の中で
─ 山下
最初は他にも「涅槃龜(にるがめ) 」とか試させていただいたりしたので、お酒3,4種類ぐらいと、違う種類のチョコレートの生地を10種類ぐらい試作して、その中から最終的にチョコ生地は4種類くらいに絞ったので、佐藤さんに送ったときお酒3種×チョコ4種類の12種類くらい(試作を)送りましたよね。
─ 佐藤
そうそう、全部食べたよ、おいしかった。
─ 山下
最初やってみてわかったのは、やっぱり新政のお酒は完成度がすごく高いし、それぞれの個性を持っているので、クリームとかチョコを使うと結局喧嘩しちゃうんですよ。僕ら(のチョコレート)も個性が強いので。
─ 佐藤
そうだね。
─ 山下
だからどういうコンセプトで行くのかっていうことをずっと考えたんですけど。やっぱり一回佐藤さんや新政の皆さんがお酒をどう捉えているか、食べてもらった時にどういう印象を持つかって聞いてからの方がいいね、となり試作のだいぶ初期段階で送りました。結構お時間いただきましたよね。
8.たどり着いたのは”食べるNo.6”というコンセプト
─ 山下
1回目(に送った試作)覚えています?
─ 佐藤
「No.6」も含まれているチョコ?
─ 山下
最初にいろんな種類のやつ送ったじゃないですか。
─ 佐藤
結局「陽乃鳥」もやったよね?いろんな豆の産地と組み合わせて、「陽乃鳥」と「No.6」とやったけど、やっぱり「陽乃鳥」の方が完成度は高いかなと思ったけど。逆によくある感じなのかなと思って。「No.6」の方はやっぱり酸味がチョコにあるから、複雑な感じになって俺の好みだったのね。
─ 山下
あのときの光景を鮮明に覚えていて。言ってなかったんですが、ちょっと「佐藤さん」の顔(食べた時の表情)がまだピンと来てない感じだったんですよ。
─ 佐藤
まじで、そうだったんだ(笑)
─ 山下
それちょっと覚えていて。1回目の試作を食べてもらった時、「このお酒の個性って佐藤さんからするとなんですか?」と質問させてもらったんですよ。
どの方向性でいくかを迷っていたので、1回目の試作はそのまま感想をもらいたくて粗い感じで送っているんですよね。
まずチョコと日本酒を合わせただけもので、率直に感想を聞こうと思いそうしました。
なんで(最終的に)「No.6」にしたかと言うと、理由があります。
お酒の個性を質問させて頂いた時におっしゃっていた、「(No.6が)甘味と旨味と酸味というものをきちんとバランスよく閉じ込めている」という、新政を象徴とする、シグネチャーのお酒なんだなということを、お話からすごく思って。
だとしたらチョコと相性がいいとかそういうことじゃなくて、一番最初は新政の歴史と文化みたいなものを表現している「No.6」からやった方がいいんだなとすごく思いました。
(佐藤さんと)感想は同じで、「陽乃鳥」のほうが楽なんですよね。(笑)甘さもあるし。
でも(Minimalの職人達と話し合って)試作を重ねていく過程で思ったのは、「せっかくやるんだったら“生チョコじゃなくていい”」と。やっぱり新政へのリスペクトと、飲んでこんなにおいしいお酒なのだから、このお酒をそのまま表現するほうがいいと。これは「食べる“No.6”」だと。
─ 佐藤
そうだよね。これはありがたいよね。結局なんだろう、うちのお酒を表現するために(それまで作っていた生チョコレートのレシピを)1からつくり直したって感じだよね。
─ 山下
完全に造りなおしました!
─ 佐藤
自分な得意なものをぶつけるのではなくて、「No.6」を立ててくれて、「No.6」を引き立たせるための技術を駆使してこれを作ってくれたから、すごいなというかありがたいなって。
9.お互いを引き立てあうために。1%単位でチョコレートの配分を調整
─ 山下
No.6でいこうと決めた後、(「No.6」)R-type、S-type、X-type全部一回いただいて、全部試して生地10種類くらいつくり直しました。
─ 佐藤
そうでしょうね。結局初めの試作からかなり変わったもんね。
─ 山下
変わりました。本当にありがとうございますなんですが、良いモノ(=日本酒)の個性があれば、ちょっと格好つけた言い方で言うと、チョコレートってホワイトキャンバスになれるんだなって思ったんですよ。
─ 佐藤
ああー、そうか、うん、そうだね。
─ 山下
いい絵の具とか、いい絵を描ける人がホワイトキャンバスに絵を描いてくれたら、今までにないものができるな、って。(そういう思いで)食べる「No.6」がいいと決めた時に、チョコレートを主役としてつくっていたら、発想できないつくり方になったんですよね。
これってめちゃくちゃすごいこと(発見)で、(自分たちのやり方で)やっていると、自分たちの視野の中でどんどん深く行くじゃないですか。そこに僕らと同じくらい深いか、もっと深い(別分野の)ものが来た時にどうやって合わせるか。クリエイティブな発想の枠が外れるんですよね。
─ 佐藤
そうだね。
─ 山下
それが今回僕らはめちゃくちゃ気付きでしたね。
─ 佐藤
あんまりやらないからね。こういうことって。
─ 山下
僕らこんなに本気でこうやってなんかの素材を使ってコラボするって初ですから。
─ 佐藤
本当に技術がないとできないことだね。
─ 山下
ポイントはチョコレートを75%コロンビア産シングルオリジンのチョコレート使っているんですよ。
このチョコは、良質な油の甘味と乳酸、果実味、そしてワインっぽい発酵感を持っています。「No.6」の持っている要素と相性の良いチョコレートを豆から造りました。
普段は油分少なめに、(粗挽きにして)豆のザクザクした状態で作るんですけど、(今回のカカオ豆は)滑らかにかなり細かく挽いています。
(そのカカオ豆からチョコレートを作る時の、カカオ豆の配合率は)いつもで言うと70%ぐらいでやるんですけど、お酒とぴったり合うものになるまで、1%ずつ配合を変えて調整して75%にしました。
(副材料の話として)普通、生チョコレートって、バターとか生クリーム使っていますが、乳が多くなっちゃうんですよね。そうするとお酒のいいところを隠してしまうんですよね。
─ 佐藤
うん、そうだね。ミルク入りすぎるとね。
─ 山下
だから今回、バターと生クリームをめちゃくちゃ減らしました。その分、(チョコレートの方を細挽きにして滑らかすると出てくる)油分で(味を)受け止めて、なるべく(バターや生クリームの)乳脂肪分を減らすことで、お酒の繊細な味わいが消えないように。
かつ、元々(今回使用しているコロンビア産シングルオリジンの)チョコレートが、「No.6」に近い味わいを持っているから、そこを引き立ててグッと後半に盛り上げていけるように配合を変えたというのがあって。これはめちゃくちゃ面白かったですね。うちの職人はひいひい言っていましたけど。
─ 佐藤
そうだろうね。何度も造り直ししたしね。
─ 山下
作ってくれたのは片岡っていう職人ですけど、彼女はフランスにいたりしたので、オーセンティックなお菓子が大好きで、製造技術はしっかりしているんです。彼女に感想を聞いたら、さっきとまったく同じ話をしていて、「個性と個性のぶつかり合いではなくて、お互いの良いとこを活かすために、材料やカカオの濃度などを0からいじることで、自分の中にめちゃくちゃ発見があった」って言ってました。
─ 佐藤
そこまでやってくれて、最終的に「No.6」でやってよかったですね。
─ 山下
もう今日はこれを伝えたいと思って(インスタライブ)やったので満足です。(笑)
10.佐藤さん「中盤から、後半にかけての口当たりが確かに“No.6”」
─ 佐藤
やっぱり思うんだけど、これ20%お酒入っているでしょ。このお酒って生酒なんだよ。てことは麹の酵素がまだ生きたまま入っているわけじゃん、これ時間が経てばもっと味が変わる可能性あるでしょ。
─ 山下
変わる。僕らも試作のもので(時間の経過による味の変化を)見ているんですけど、これ変わりますよ。
─ 佐藤
うん、多分だんだんうまみが増してきたりするよ。
─ 山下
ふくよかに感じたりしてね。これ面白いというか、すごいものをつくっちゃったと勝手に達観しています。
これ食べてみての実際の感想はどうですか?リアルな。
─ 佐藤
よくまとめましたよね。中盤から、後半にかけての口あたりが確かに「No.6」だよ。香りもやっぱり「No.6」の香りあるもんね。これ繊細ですね。うまい!
─ 山下
(手元にある生チョコレートを食べる)
これすごい勢いでなくなったんですよ。
─ 佐藤
あーそうみたいね。すごかったね。
─ 山下
(オンラインストアの)先行予約ですぐ売れちゃって、2回目の一般予約は10分でなくなって。新政ファンもそうだし、うちの(ファンの)人たちも待ちわびていたんですけど。
(実は)これコミュニケーション気をつけないといけないなと思っていて。(今回の生チョコレートを)生チョコレートを期待して食べると、(所謂ミルキーな感じの)生チョコではないんですよ。
「食べる日本酒」であるということをきちんと伝えたいなと思って、(今回の)インスタライブやっている目的でもあります。こういう新しいもの、たぶん普通の生チョコとかと比べたら全然違うものが、世の中にどれくらい受け入れられるかっていうのは僕らとして興味深い。
ものづくりをしている僕らからするとこういうことをやらせてもらうのは幸せことだなと思います。これは面白い体験だったなと思います。ありがとうございます。
─ 佐藤
いえいえ。でもやっぱり生チョコと生酒の融合だからね。火入れのお酒と生酒って違うんだよね、どうしても。俺は火入れの酒も好きなんだけど、生の醍醐味って日々刻々と変化していくところが一つだと思うんだよね。
滑らかな生チョコで、時間の変化とともにちょっとずつ時間の変化で変わっていくって、今までのチョコじゃありえない。生きているわけだよね。
─ 山下
そうですね。そのためにちょっと残しておこうとおもいました(笑)
─ 佐藤
冷蔵庫の中だと、どのくらい保存できるの?
─ 山下
密封で入れていると冷蔵庫の中で2週間と設定しています。あと少しずつ香りが飛んでくるので、(解凍せずに)冷凍だと長持ちします。ものづくりって面白いですね。
11.別ジャンルとのコラボレーションでチョコレートの表現の幅が広がる
─ 佐藤
お声がけいただいてこんなきっかけになるとは思わなかった。一般的に例えば、うちらだと、地元のお店がお菓子の中に新政を使わせてください、酒粕を使わせてくださいみたいなのはあるけど、今回のは全然違って「No.6」の新しい楽しみ方をこれで提供してくれたって感じだよね。
─ 山下
まじっすか!それはとてもうれしいですね。こんなに問というか考えさせられることってなかなかないじゃないですか。
(でも)常にカカオに関してはこれくらい考えているんです。カカオって農作物だから同じ農園、時期によって味変わったりとか、思いもなかったような香りが出てきたりとかするから、なんでなんだろって考えながらやっていて。未だに答えは分からないことが多いんですが。
(従来の洋菓子や)生チョコはベーシックなレシピが決まっていて、そこから(アレンジを)どのようにするかを考える、という考え方の順序なので…。
でも今回の新政酒造とのコラボレーションでは、そもそもレシピからでなく、コンセプトからなので、答えを自ら見つけるために考え続けるんですよね。
何を表現したらいいんだろうと考え続けて、一つ形になって、また次考えるきっかけが生まれる。こういうことってなかなかできないなって思って。
─ 佐藤
うん、確かにそうだね。
─ 山下
今回のコラボを通して学んだことは、キャンバスとしてチョコレートが何かを受け止めることができるとすると、僕たちのブランドの懐みたいなものがまだまだ全然広がるなって思いました。
─ 佐藤
うん。そうだね。こういう感じでチョコレートがハブ的な感じで、いろんなものつながっていける、っていう良い示唆的な取り組みだったんじゃない?
─ 山下
すげー広がった。
~本題から離れたため、一部割愛~
─ 佐藤
このように個性的なものづくりしている人とジャンル超えてコラボレーションすることで、また技術が上がったりするんだよね。
─ 山下
めちゃくちゃ(上がります)。
(これまでは)目の前のカカオをどうやってチョコレートとして表現しようかなってことばかり考えていました。そのままだと、作品としてのレベルが高いものを入れたときに、僕らの今までの考え方だとケンカしちゃうこともありました。良くも悪くもそれって(これまでの)僕らの技術や思想の幅が未熟で受け入れられなかったと思うんですけど。
(でも)今回やらせてもらってすごく思ったのは、僕らがこれだけカカオの味でいろいろ香りをいろいろ表現できることって、多くの他の素晴らしい素材を、ホワイトキャンバスとして受け止める懐があるんじゃないかって気づきがありました。
─ 佐藤
まあよく難易度の高いお酒を選んでちゃんとものにしてくださったと思い、びっくりしています。
─ 山下
(笑)。ちょっと疲れました。
─ 佐藤
なんだろうね。「陽乃鳥」だったらここまでにならなかったと思う。無難になっちゃうでしょうね。難易度の高いものを選んでくれたから、完成した時の個性が際立ったチョコができたんだね。
─ 山下
新政さんのシグネチャ-の「No.6」という一番軸となるお酒と正面から向き合えたのはよかったですね。
─ 佐藤
うん。そうですね。こういう時期だからね。こういう楽しい取り組みだから「No.6」は僕らにとって1番キャッチーな銘柄だからこれで良かったね。お客さんはきっと喜んでくれたと思うし。
~告知(2月末の追加製造について。後述します)~
12.山下「10人中1人だけに突き刺さる、みたいなものづくりで突き進めばいいんだと思えた」
─ 佐藤
おいしいね。このチョコ。
─ 山下
ああよかった。自分の商品をこんなことを言うのは恥ずかしいんですけど、これは結構、感動しています。ほんとに。
─ 佐藤
20%も入れてるんだ。すごい。
─ 山下
すみません、本当に贅沢に使っちゃって怒られちゃうかもしれませんが。
─ 佐藤
いやいや、ありがたいですよ。
─ 山下
(今回の生チョコレートづくりを)やって思いました。こういうのって、利益がどうこうって話じゃないなっていうとこに答えがありました。「陽乃鳥」で生チョコライクなものを作った方がもしかしたら世の中の多くの人に受け入れてもらえるかもしれないですけど。
やっぱり「No.6」で難易度の高いところに向き合い、どうしたら表現できるのかということを徹底的にやるみたいなことが自分たちのものづくりが一歩前に進めるというか今まで見えなかったとこに到達できるみたいな。
8月に講演してもらったときの「おいしいは大事だけど、美意識や目指すものを見てものをつくれるか」みたいなことを出来たことが本当に良かったです。
これ言っていいのかな…
「万人に買っていただかなくてもいいんだ」みたいな。(佐藤さんは)「うちの新政の世界観や背負っているものがわかる人にこそ楽しんでいただきたい」っておっしゃっていたじゃないですか。
─ 佐藤
まあこっちもそれなりの(こだわり、品質の)ものを提供させていただいているっていうことで、それが通じない場合もあるから。ただ、通じる人におもいっきり、がっちり通じさせたいなっていうね。やっぱり濃いものを作っていると
まあ、そういうスタイルにならざるを得ないかなって。
─ 山下
思ったんですけど、それでいいんだなって。佐藤さんもそうだし、ほかの歴史があって走っている人がそうしているように、丸いものにして、多くの人になんとなくいいねっていわれるよりは10人いたら9人にそっぽ向かれたとしても1人刺さる人にめちゃくちゃ刺さるみたいなものづくりのほうが、そのまま僕らはまっすぐ突きつめればいいんだなって思った。
─ 山下
正直コロナってしんどかったじゃないですか?
─ 佐藤
まあね。
─ 山下
今もしんどいですけど。
─ 佐藤
うん。
─ 山下
なんとなく、万人受けする易きに流れそうになるけど、そういうことだとあんまり意味もないなって気がしましたね。
─ 佐藤
まあね。結局、やっぱりクラフトワークの会社だからね。そこが一番お客さんが気に入ってくれているところだと思うんだよね。大企業かなんかの仕事とかしていたら違うんだろうけど、自分のスタイルみたいなものをきちっと守って商売ができているのだから、そこはありがたい仕事をさせてもらっていると思いますよね 。
─ 山下
ほんとですね。チョコやってよかったと思いますよ。佐藤さん達ともこうやって知り合えたし、多分一ファンとして(新政のお酒を)飲むことも出来たけど、一緒にもの作らせていただいて、横になって歩かせていただいて分かることや学ぶことがたくさんありました。外からみると、飄々と佐藤さんやっているように見えるじゃないですか。(実際にものづくりをしている立場から見ると)これは相当、いばらの道を歩んでいるなとか、めっちゃしんどいだろなってわかるじゃないですか。
─ 佐藤
まあ、まあね。
─ 山下
そういうのは面白いですね。面白いってあれですけど、勇気をもらいます。ほんとに。
─ 佐藤
まあ、でもそれがまた楽しみだったりね。やっぱり自分のスタイルかなんかをちゃんと守っている時の方が辛いけど、心の奥は安心しているというか、そういうところがあるから、もしスタイルがなかったら、経営がうまくいってたりしてもきっと心の中が、どっか空虚だったりするはずなんだよね。
たぶんスタイルがあることによって、いつも上手くいくとは限らないけれど、ものづくりする人間としての気持ちは満たされているからそっちの方が大事だと思って、仕事をしている 。
─ 山下
さらっと言いますけど、それはすごいし、まだまだクラフトマンとして歴史が浅いし、うちなんてレベル低いと思います。やっぱり日本のものづくりの人達はこんなにやっているんだなっていうのが分かると、(自分達も)もっとやらないとなって思うのは幸せですよね。一人でやっているとしんどいですから。
─ 佐藤
しんどいよね。まあでも別ジャンルで、同じ、このような話ができることは大事だね。
~ここで第一部は終了~もう1時間第二部として対談がありました~
※さらにもう1時間、第二部として対談が続きましたが、ここでは締めの部分のみお届けします。
─ 山下
最後に、もしよかったら締めていただいて。
─ 佐藤
Minimalさんに素晴らしいチョコレートを作っていただきまして、本当にありがとうございました。
追加製造があるようなので、まだ食べてない方はぜひ。
No.6、10周年記念(の年)だからまた何か作ってくださいよ。
─ 山下
またやりたいですね。
─ 佐藤
またね、年内にやれたらいいですね。それでは、ありがとうございました。
─ 山下
引き続き、Minimalと新政両方とも是非よろしくお願いします。佐藤さんありがとうございました。
13. 追加製造が決定しました!
予約受付の度に即完売した今回のコラボレーションの生チョコレート。
たくさんのご要望を受けまして、2月末に追加製造が決まりました!
なお、「No.6 X-Type 2019」を使用した生チョコレートの製造は今回で最後となる見込みです。お見逃しなく。
●Minimalオンラインストアでの予約について
・2/23(火) 10時〜予約開始(3月3日~4日 お届け※)LINEで予約開始をお知らせします。よろしければご活用ください。
※2/19追記:「3/3-3/4 お届け」に決定いたしました
※2/10追記:「3/5-3/7 お届け」から変更になる予定です
※混雑回避のため、Minimal富ヶ谷本店・代々木上原店では【 2/28(日) 】より、若干数の販売となります(ともに営業開始ともに販売開始予定。本店は11:30〜、代々木上原店は11:00〜)
※新政酒造様へのお問い合わせはお控えください。