6月15日は、父の日です。
今回は、普段あまり話すことのないお父さんやアクティブで陽気なお父さんなど、さまざまなタイプのお父さんとMinimalを通して楽しむ父の日を、ショートストーリー形式でお届けします。
ぜひMinimalならではの素敵な父の日をお楽しみください。
美食家のお父さん | ミニマルバウム
父の日は、不意打ちでいくことにした。
父とはよく喋るので、贈り物に勘づかれないように気をつけた。幸い、今週は仕事で忙しく、週末はゴルフで家にいないので心配はいらなかった。社会人になって初めての母の日に名刺入れを贈ったことだって、父は気づいてないはずだ。
いつか誰かの出張みやげのバウムクーヘンを父がおいしそうに食べていたことを、私は覚えていた。あんなにゴルフ焼けしてるわりに味にシビアな父が、喜んで食べてたバウムクーヘン。今日はチョコレート味を探してみた。これでこないだの朝帰りも許してくれないかな。
夕食のあと、くだらない冗談を言いながらテレビを見ている父に、バウムクーヘンを差し出した。不意打ちがストレートに決まり、父がフリーズした。驚くと本当に目を丸くするんだと吹き出してしまった。
ナイフで切り分けてフォークで食べ始めると、父はやっと調子を取り戻して言った。
「おいしいね!……これ、自分で作ったって本当?」
「なわけないでしょ」
思ったとおり父は、はぐらかす。
「今ここで死んでもいいほど幸せ者だなあ!遺影はバウムクーヘン持ってる写真でよろしく!」
もうそのリアクションには付き合わなかったけど、隣にいる母に、親孝行されちゃったねえ、とつぶやくその言葉を、私はいちおう聞かなかったふりをした。
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お酒好きなお父さん | 7DAYS CHOCOLATE
息子が居間にいる。盆と暮れにしか顔を見せない奴が、なぜか今日。
重大な話でもあるのかと身構えたが、そんな様子でもない。ひと通りの世間話が済むと、沈黙が落ちる。遠くで鈍行列車の音がする。ビールがぬるくなり、水滴がテーブルに海をつくる。
「今日は父の日だからさ」と言って、小箱を差し出してきた。何だ急に。
箱を開けると、7色の小袋が整然と並んでいる。
「このチョコ、好きな酒に合うかなと思って」と息子が言い、包装を切る。
おそるおそる口にしてみる。ジャリジャリする。ほのかに甘く苦い、ようでいて、鼻に清涼感が抜ける。何だこれ。チョコレートというより、不思議な薬草の断片をかじっているようだ。
「でしょ?」と息子が目配せする。思わず頬がゆるむ。
目が合った。まじまじと眺める。そういえばこんな顔をしていたのか。記憶の中にある彼よりも落ち着いているが、生え際にわずかな白髪がのぞく。不意に彼の眉間の皺が深くなるのは、昔から不穏な出来事があったしるしだ。
「悪くないな」と私は言い、食器棚の酒瓶に目を向ける。「これはたしかにウイスキーに合うかもしれない」
こっちはどうかな、と息子がもう1枚の封を切っている。思わず私が少し、身を乗り出している。
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無口なお父さんに | CHOCOLATE ADDICT CLUB
母の日より、父の日が盛り上がらないのは、父のせいだ。
まず、家の中での存在が薄すぎる。家にいるんだかいないんだかも分からない。その上、誕生日でさえ贈り物をしてもリアクションが極薄すぎる。思わずこっちが気まずくなってテーブルに視線を落とすことになる。わかってる。照れ隠しなのは。不器用な父なりの誠実さでもあることも。でも、もう少し受け取り方をうまくしてくれてもいいのに。
ふと、思った。もしかすると、私のほうが渡し方を変えてみるといいのかな。
だから今年は、これまでとは少し違うかたちを選ぶことにした。お酒もネクタイもカバンもやめ、ふだん自分ではまず買わなそうな手の込んだお菓子を少量、それも一度きりではなく、毎月届くもの。
そうすれば、渡したときのテンションというより、食べたあとの感想を電話してくれるようになる、はず。定期便で毎月送られてくれば、父の感想も「先月のより好きだったよ」とか言いやすくなる、はず。甘いものはもともと嫌いじゃないんだし。
そしたら私は「最近、元気?」って聞きやすくなる、はず。本当はそれだけが聞きたくて、贈り物にこんなに頭を悩ませているのだから。
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