【Minimalカルチャー対談】365日オーナー・杉窪章匡さん(後編)「これからはキャラクターが注目される時代」

2023.05.19 #Minimal's Story & Report

渋谷区・富ヶ谷にて創業し、10年を迎える「365日」(ウルトラキッチン株式会社)とMinimal。

ウルトラキッチン代表の杉窪章匡(すぎくぼ・あきまさ)さんと、ゆっくりお互いのビジョンや運営について語り合いました。
最終回はこれからの食の世界について話し合います。
※前編はこちら、中編はこちら

 

三流がいちばん売れる!?

山下
杉窪さんからご覧になって、Minimalはどう見えますか?

杉窪さん
僕は会社やブランドにとって大事なのは、「スキル」と「キャラクター」と「ビジネスモデル」だといつも言っているんです。たとえばめっちゃいいビジネスモデルを思いついても、それを実現できるスキルがなかったら事業もできないじゃないですか。キャラクターも同じです。

で、最近のMinimalを見ていると、なんかキャラクターがあんまり出ていないんじゃないかな?と思ってます。

山下
あ、そうですか。それはどんなところですか?

杉窪さん
たとえば、板チョコレートだったら、ざらざらの食感でキャラクターが出てたじゃないですか。Facebookに上がってくる新商品とかでしか見てないんですけども、なんか作るものが丸くなってる気がして。もっと尖ってていいんじゃないかなと。

山下
杉窪さん節の率直なご感想で、うん。めちゃくちゃ面白い。
なんか今は「観察してる」って感じがありますかね。いろんな世の中の「普通」を。

杉窪さん
あ。それ、あんまり良くない傾向かもしれない。
僕がいつも言うのは、「三流がいちばん売れる」ってことなんです。三流ってお客さんの半歩先を行くことなんですけど、それが勘違いして「俺、一流!」みたいな感じになってやってるときが一番バーンって売れるんです。

山下
わかります。

杉窪さん
みんな、僕も含めて「合わせにいく」ってすごく難しいんですけど、「365日」の場合は、富ヶ谷というあの地域のお客さんが「いちばん喜んでくれるアンパン」とかいうふうに考えて作っていて。これって「普通に合わせている」とは違うんですね。

山下
うん。たしかに。

今はクリエイティブが死んでる時代

杉窪さん
今の時代って「クリエイティブが死んでる時代」なんです。昭和の頃にすごく似てて。

たとえば、お客さんがみんなケーキの知識がないとするじゃないですか。そうすると、見た目の派手なものとかインスタ映えするとか、そういう目を引く要素がものを言うんですね。それは「ものを知らない」からなんです。昭和の頃もそういう感じだったんですよ。

時代は繰り返すので、今の時代の反動はこれから必ず来ます。たぶん「人」が注目される時代が来ると思います。

山下
「キャラクター」が大事?

杉窪さん
そう。ケーキ屋さんに30種類並んでいる中から買おうとすると、お客さんは無難なところを選ぶんです。冒険しないです。なぜかというと、知識がないから。

それが数年でたぶんチェンジします。AIです。「一人一台ドラえもん」の時代になります。あれは「フィジカルのないドラえもん」なので。「ドラえもーん、オペラって何?」と聞けば、その場で由来から製法まで全部教えてくれます。

だから、ソムリエみたいな仕事がなくなります。ソムリエに聞くよりドラえもんに聞いた方が詳しいので。唯一残るソムリエがいるとしたら自分の「体験」を足せる人。たとえば、千葉麻里絵さん(EUREKA!店主)みたいな、酒蔵を回っていて「この造り手はこういう人で」と伝えられるのはAIより絶対に詳しいじゃないですか。そういう人は残りますけど。めちゃくちゃ詰め込み型のガリ勉タイプの人は、何も経験がないので。

山下
接客サービスも全く同じで、知識が価値ではなく、その人の知識・経験から提供出来るユニークな体験に価値がある時代になっていきますね。

「人」にもう一度戻っていく時代という観点は全く同意見です。

これからの時代は、国語力と経験

杉窪さん
だから、これからの時代は子供たちが「AIを動かすための国語力」と「体験・経験」が大事。コミュニケーションスキルがたぶんいちばん重要なスキルになるはずです。もう勉強しなくていいから、国語だけ。

山下
あとは抽象と具体ですよね。どういう問いの設定できるかですよね。

杉窪さん
そうそう。やっぱり国語力。

山下
今日はパン屋さんの経営者に話を聞いた感じじゃないですね(笑)

杉窪さん
理解されないことが多いです(笑)

山下
短い時間だと伝わらなそうですね(笑)。杉窪さんはアウトプットできる順番と時間が大事なんですよ。短い時間だとどっかを切り取られて誤解されやすい。

杉窪さん
ちょっと楽しんでるとこもありますけどね(笑)。これも「調和」のために……

山下
「誤解も、また一つの理解」というか。

杉窪さん
だって、みんなが同じ考え方で一つに染まることが、とにかくいちばん怖いことだから。

山下
本日はどうもありがとうございました!

 

杉窪章匡さん
1972年、石川県生まれ。両祖父が輪島塗職人という職人家系の血統。24歳でシェフパティシェに就任。2000年渡仏。2つ星「ジャマン」1つ星「ペトロシアン」を経て2002年に帰国。帰国後、数軒のパティスリーでシェフを務め、2013年12月「365日」をオープン。「ジュウニブンベーカリー」など現在首都圏で8店舗を運営。
https://ultrakitchen.jp/

 

※Minimalカルチャー対談、過去の連載はこちら

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