2019年バレンタイン・ホワイトデーシーズンのMinimalのシグニチャー商品である「Minimal Works : Flavor 2019」。
カカオ豆農家やMinimalの職人をアーティスト、クラフトマンとして捉え、彼らが造ったチョコレートをその作品と見立てて、“アートブック”として設計しました。
後編となる今回の記事では、その仕掛けの裏話をたっぷりとお届けします。
(前編はこちらからご覧ください)
「Flavor」と言うテーマと7つの選択。
カカオ豆の豊かな個性を表すのがFlavorです。この一つ一つのFlavorをきちんと表すために1年間で3119回レシピをつくり、細かく調整しています。だからこそ記念すべき初のWorksのテーマはストレートに「Flavor」で行こうと考えました。
そこから大変だったのは7つに絞る事。
どのレシピで、どのフレーバーであれば初の作品集としてお客様にその魅力が届くのか。過去のレシピをすべて引っ張り出して見直しました。
そうしてみるとこれまで表現したフレーバーは50以上あることが分かりました。その中で現状ある豆の種類も踏まえて、お客様に最も豊かな体験やフレーバーの幅を感じてもらえる7つに絞り込むためにたくさんの議論を重ねました。
美術館や個展に通い、見えてきたWorksを体現する要素
7つのフレーバーを決めると同時に悩んだのは作品集という事を伝えるために何が必要かという事でした。
フレーバーの違うチョコレートを詰め合わせるだけでは本当に伝えたいことが伝わるのだろうか?という疑問が頭から離れませんでした。そこで、世の中にあるいろいろなアーティストの作品集を見たり、個展、そして美術館に足を運びました。
多くの作品集や個展に触れる中で心に残る作品の見せ方に共通することは、単に作品を見せるだけではなく、その前後も含めて“どんな体験をさせ、どんな心理変化をさせるのか”という全体のユーザーエクスペリエンスがきちんと設計されている事でした。
そこで、食べる前後にどんな体験の誘発や情報のインプットがあれば私たちが伝えたいフレーバーが一番立体的に伝わるかが大事だと気が付きました。
最もヒントになったのはある美術館での体験でした。全体コンセプトから一つ一つの作品のビジュアル、作品ごと文字情報、そこから連想されるプラスαの体験、そして一緒に行った人と感想を共有する事で深まる学びまで含めてそのアーティストの作品集を深く感じることができました。その学びを通して以下の要素が見えてきました。
・チョコレートの詰め合わせではなく、読み物としての“アートブック”とする事
・フレーバーを色で表現する事
・フレーバーをビジュアル化して補足する事
・フレーバーの文字情報やその他によって追加体験の設計する事
チョコレートのパッケージを本にする挑戦
“アートブック”とすることは大きな挑戦でした。
チョコレートのパッケージを本と見立てるためにはページが必要でしたが、そもそもチョコレートを入れるパッケージに読みのモノとしてページ仕立てにすることはパッケージ会社さんもやったことがなく、本当にできるのか、コストは見合うのかが大きなポイントとなりました。
何度も形状の打ち合わせを繰り返して試作を重ねました。正直何度見直したか覚えていないほどパッケージの試作を繰り返し、形状を決めて、製造をクリアして、コストをクリアしていきました。
「本」の形状と見えるように本棚に並べてみて違和感がないデザインとして外装の文字を配列。Minimalが素材を大事にしていることを表すために外装にはテクスチャーを感じるクロコ紙を採用しました。
最後に留めるために貼るシールには遊び心でバーコードを模したデザインと「Published in 2019」と記載しました。
職人のフレーバーを捉える繊細な感覚をビジュアルで表現する
次の難関はフレーバーを色で表現する事と、色以外でもビジュアル化する事でした。
フレーバーはその特徴を端的なNoteで表しています。そのNoteから連想できる色のイメージを職人チームとすり合わせる中で議論になったのは、「青りんご」とか「ローストナッツ」というNoteはあくまで“食べた時に感じる全体的な所感である”という事。
つまりチョコレートを食べるという体験は、まず口に入れた瞬間に感じる香りや味わいのファーストノート。感じるテクスチャー(食感)。口の中での味や香りの拡がり。最後にアフターの余韻に残る香りとその長さというトータルの体験であるという事でした。
毎日毎日ティスティングを繰り返してレシピを決めている職人たちはフレーバーをとても繊細に捉えています。
ビジュアルの議論を重ねる中でこの職人の繊細な感覚をビジュアルに落とすことができれば、きっと面白い体験になると確信しました。
それぞれのフレーバーの香りや味わいのイメージを「色」として、そのテクスチャーを「凹凸」や「ツヤ・マット感」として、最後に拡がり方を「色の面積」として表すことを決めました。
そこで7つのフレーバーのパッケージのビジュアルを一つ一つ自分たちで絵の具で描くこと決めました。
そう言って始めたものの、やはり感覚をビジュアルに落とすことはとても大変でした。職人チームから感覚を聞いて描く、そして描いたものを見てもらってフィードバックを受けて修正する、を何度も繰り返しながらすり合わせて完成に落としていきました。
例えば♯3はテクスチャーを表すために絵の具に砂利を混ぜて描くなど、デザイナーさんが呆れるほどこだわりました。
食べる前後の追加体験を設計する
最後の難関は読み物としての「ページ構成」です。どんな情報があったら食べる体験がもっと豊かになるのかをひたすら考えました。
各ページの詳細に入る前に、作品集なのでやはり目次がいると思いました。しかしせっかく食べるという感覚を大事にしたアートブックだったので、文字で目次を書くのではなく、パッケージを開けると解説ページがカラフルに連なり、この連なりを目次に見立てて、感覚的にページをめくる動作を誘導して読み物として楽しめるようにしました。
次に各ページは、それぞれの作品が「どんなフレーバーなのか」、その作品は「どのように造られているのか」の文字情報を記載しました。
さらにそのフレーバーを利用して追加体験をしてもらうために「そのチョコレートに合うペアリングの情報」も記載しました。単に食べるだけではなく、何かと合わせる事でもっと豊かな食体験を誘発したいと思ったからです。
Minimalは海外のお客様も多いので日本語と英語両方記載することも決めました。
載せる情報が決まった後は、レイアウトを考えました。単に文字が羅列されても意味がないと思ったので、美術館の展示をヒントにして、1ページごとに作品が展示しているブースと見立てて、描いたパッケージを作品が額に入って展示されているようにページの中心に配置し、その下にNote、造り方、ペアリング情報を記載しました。
ここまでは文字情報だけだったので、フレーバーをビジュアルで感覚的に捉えられるように、それぞれのNoteででてくるフレーバーの写真をイメージで追加しました。
体験のためのパッケージデザイン
こうして一つ一つのデザインを決めていくときに忘れてはいけないことは、お客様が“作品集”というテーマを体感できることと、それによってチョコレートを食べるという体験が豊かになる事。
外装の素材、開封の体験、開封時に目に入る7つの色とその順番、そしてカラフルな目次に見立てた帯でページをめくる誘導、視覚的にわかるビジュアル、食べて感じるフレーバー、そしてペアリングなどの補足情報と追加体験の提案です。
最後はトータルとしてお客様の食体験が豊かになるという目的が実現できるかを確認しながら要素を削っていきました。
その結果として今のWorksが完成しました。
Minimal Works:Flavor 2019 「アートな豊かな体験 編」 from Minimal on Vimeo.
とてもマニアックですが、このプロセスを通して私たち自身が日頃から美しいと思っている丁寧なこだわりのある手仕事をさらに深めることができました。
ぜひ私たちのこだわりがふんだんに詰まった「Minimal Works : Flavor 2019」を手に取って体験してみてください。皆様に楽しんで頂ける事を願っております。