インドシナ半島を南北に縦断するメコン川の流域では、珍しい風景を目にすることができます。 4,000キロメートルを超える上流からはるばる流れ着く肥沃な土砂の恩恵を受け、世界最大級の穀倉地帯となっているメコン地域ですが、カカオ栽培もまたその恩恵にあずかっています。
メコン川の栄養分を活用するために川から用水を引き、浮島のようなカカオ農園が広がっています。
この灌漑地の特徴を活かし、害虫を食べるエレファントイヤーフィッシュなどを灌漑で飼うことで農薬の軽減にも取り組んでいます。こうした周辺環境を巧みに活用した農法は他の産地では見られない、とても興味深いものです。
ベトナムは、カカオの生育に非常に適した気候帯に位置しています。
そのため、近年、カカオ農家やチョコレート製造メーカーが増えています。チョコレート市場を牽引しているベルギーやオランダ、フランスの企業は競うように加工工場をベトナムに設立し、ベトナム産カカオ豆に対する需要の伸びを裏付けています。
世界が認めたベトナム産カカオの品質
2013年10月30日。
パリのサロン・デュ・ショコラにおいて、ベトナム産のカカオ豆が「インターナショナル・カカオ・アワード」の「カカオ・オブ・エクセレンス」を受賞しました。
この「カカオ・オブ・エクセレンス」は、世界各地におけるカカオの多様性を讃え、カカオの加工と品質の卓越性を総合的に評価することを目的として、世界的なチョコレート品評会「インターナショナル・カカオ・アワード」の中で開催されているものです。
こうして世界的に名声を確立しつつあるベトナムのカカオですが、栽培が本格化したのはごく最近のことです。カカオを成長させるための最適な気候と肥沃な土壌は揃っていたものの、21世紀以前はほとんど栽培されていませんでした。
2000年に、農業開発省がカカオ生産を後押しする長期的なプログラムを発表したことで、力を入れるようになりました。
主な収穫農地は、南部メコンデルタ地帯と南東ハイランド地帯です。
土壌に栽培適性があることと、台風の影響を比較的受けにくいことなどにより、カカオ栽培の拡張に力が入れられています。また、国の指導により「トリニタリオ種」のみを植え付け、栽培をしているという特徴があります。
ベトナム産のカカオ品質や国の熱心な取り組みを受け、各国の大手チョコレートメーカーや商社が拠点を設けて栽培・発酵に関する手厚いサポートを行っています。こうした成果もあり、ベトナムのカカオの発酵のていねいさは国際的な評価を得つつあります。
ベリーのような酸味が強いカカオ
Minimalが取り扱うベンチェ省のカカオ豆は「ベリー」系の風味が強く、酸味や渋味が強い特徴があります。
とりわけ重要な個性である「酸味」は、大きい熱量で焼くと失われたり、香ばしいロースト香との相性が良くありません。一方でローストが弱くてもカカオのもつ香りが十分に現れないため、きめ細やかな調整が必要とされます。またコンチング(練り込み)に時間をかけても同じく酸味が損なわれる傾向があるため、Minimalではベトナム産のカカオ豆に関しては、熱量や加工を細心の注意で抑える製法を選んでいます。
雨季と乾季の収穫期により、酸味と渋味のバランスが異なることがあるため、購入の際には麻袋の単位で確認を行ない、ロットを選んでいます。またシーズンによって渋味が強すぎることもあるため、その場合は砂糖を多めに調整するなどして味わいのバランスを精密にコントロールしています。
ベトナムのカカオは、アイスクリームに使うと爽やかで果実感のある味わいになり、カカオ自体を煮出すとフルーツ・ティーのような味わいになるなど、多面的かつ個性的で面白い豆の産地であるとMinimalでは捉えています。
Minimalが訪れた生産地域は、海外からの知識・設備面のサポート基盤が整い、風味に大きな影響を及ぼす「発酵・乾燥」も、ていねいに手がけられていました。
他国では、その煩雑な手間や、必要性の理解不足や、設備不足などの要因で、「発酵・乾燥」が不十分であったり、タイミングによって品質の差が激しいことも珍しくありません。
この「発酵・乾燥」技術のレベルは、ベトナム豆のとても良い特徴と言えます。
もしかすると、米やコーヒー、カシューナッツといった国際市場向けの輸出農作物をつくってきた背景が生産者のマインドに影響を与えているのかもしれません。
ベトナムの農家と共に成し遂げた金賞受賞
ベトナムと日本には、共通点がいくつもあります。
南北に長く、海に面した国土を持っていたり、衣類の生産や工芸品にみられる手先の器用さ、仏教徒が多いことや、言語にも似たところがあります。今のベトナム語はフランス植民地時代の影響でアルファベット表記になっていますが、元々は漢字文化圏であったため、ティエン ニエン(天然)、キー ニエム(記念)など響きが日本語と面白いほど似ている単語が多くあります。
日本のテレビドラマ『おしん』は昔アジアで広く放送されていましたが、ベトナムでは家政婦のことを「oshin」と呼んだり、昔ベトナムで走るバイクは安く丈夫でとても人気のあったホンダカブばかりであったことから、今でもバイクのことを「Honda」と呼んだりするなど、親日国であるベトナムと日本の絆が日常の中にも強く感じられます。
食事も主食が米で、味付けもエスニックなイメージとは異なり、辛さやスパイスのクセはなくマイルドで、ベトナムに住む日本人が毎日食べても飽きないほど、とても馴染みやすい味わいです。他にも、朝まで一気飲みをし合う“飲みニュケーション”で互いの心の距離を縮めるところまでも一緒で、否が応でも親近感が湧きます。
互いの仕事に取り組む基本的な姿勢や、取引を重ねることで生まれる信頼性により、共に築き上げていく関係性が大事なのはもちろんですが、こうした肌感覚で得られる国民性への信頼感も心地よく感じられるものです。
Minimalは『インターナショナル チョコレートアワーズ アメリカ&アジア太平洋大会2016』※の出品部門にて、ベトナム産カカオ豆を使った製品で「金賞」を受賞しました。
“Plain/origin bars”(香料等を用いない板チョコレート部門)での金賞受賞は日本ブランド初の快挙で、ベトナムの現地農園からもお祝いのメッセージをいただきました。
受賞はひとつの結果でしかありませんが、農園のみなさんが誠心誠意生産した豆からつくったチョコレートをMinimalが日本や世界に届け、高い評価をいただくことでベトナムが注目され、それがベトナムのカカオの発展や生活へのお返しになるのであれば、これほど嬉しいことはありません。
このような関係が末永く紡げるように、栽培や発酵を実施する面でも、チョコレートの作り手という面でも一緒に励んでいきたいと思っています。
※International Chocolate Awards(世界最優秀のチョコレートを認定する世界大会)の予選地域大会
ベトナム社会主義共和国
○位置:東南アジア ○人口:8,900万人
○年間カカオ生産量:6,000t(世界22位)※2014/15推定 ICCO
出典:
Belcolade.com『Vietnam Cocoa Programme』
AsiaLIFE『cacao in vietnam』