2023年公開の『怪物』(カンヌ国際映画祭・脚本賞クィアパルム賞2冠)と、『ゴジラ-1.0』(米国アカデミー賞・視覚効果賞受賞)のプロデュースを手がけた東宝・山田兼司さん。
“世界基準の映画”を掲げる山田さんと、世界進出を見据えるMinimal代表・山下が、日本ならではの強みやカルチャー、世界で勝負できるコンテンツについて語り合いました。
もしスピルバーグ監督に食べてもらったら
山田さん
僕は毎日、息を吸うように映画とドラマを見て、普通に生きるためにもう必要なものなんです。
世界中ですごい作品ってどんどん生まれてて、それを味わった瞬間が基本的には僕には喜びになるんですね。
僕の周りには信頼できる「見巧者(みごうしゃ)」がいて、そういう人たちと常に「この映画がすごかった」「こんな表現を出してくれるんだ!」って情報交換し合ってるんです。
特にすごい作品や古典的な作品って、必ず重層的になっているんですね。で、受け手のレベルによってどこまで味わえるかが変わるんです。
だから、自分という容れ物がいろんな世界でいろんなことを学んだりすると、その「重層構造」がどんどん見えてくるんですよ。そして面白さが変化していくわけです。
山下
それって前編で話していた「ブドウのような風味を作り出すために、複層的に香りや味わいが重なりあっているって話」と一緒かもしれませんね。
重層的なものをどこまで自分が理解できるかという解像度が、経験によってどんどん上がっていくんですよね。
山田さん
そうそう、まさに!Minimalのチョコレートを食べたり、コンセプトを聞いたり、いろんなことを考えるとーー僕も一応“見巧者”の経験から思うんですけどーー普遍性を帯びるに違いないと確信しているんです。
「世界にも全然いけるでしょ」って感覚的に思っちゃうのは、必要な4要素はもう満たしまくっているので、そこを洗練させていくフェーズに入られていて。
あとは、世界中で“食べることに対する凄まじい経験をしてる人たち”に食べてもらって、どう感じるのかを聞いてみたいんです。
山下
なるほど。
山田さん
僕はMinimalが大好きだから、“伝道師”として世界で食べてもらいたいというか。
たとえば、(スティーブン)スピルバーグ監督に食べてもらったら、コンセプトやバックストーリーなどどこに反応してどう受け止めるのかとか興味があるし。
いつかすごい爆発するんじゃないかと思ってるんですよね。そのためには何かのきっかけが大事だと思うからその一翼を担いたいと、勝手に僕は“応援団”として思っています(笑)。
山下
嬉しい限りです(笑)。でも、そういう意味で言うと、僕らはまだまだ内にこもりすぎてますよね(苦笑)
日本を深掘りしながら、世界基準を発見しに行く旅
山下
今回「カルチャー対談」と銘打って異業種の視点から兼司さんにお話をいただいているのですが、僕らは「新しい未来」を創っていきたいと考えていて、それを「カルチャー」と呼んでいます。
これから映画を作り続ける先で何を見たいというのはありますか?
山田さん
それはもうシンプルで、去年カンヌ映画祭とアカデミー賞を経験させてもらってものすごい情報量を浴びてきたんですね。
今、一生懸命整理し続けているんですけど、この経験をシェアして、自分的にも深堀りし、日本で「世界基準のストーリー」を追求したいんです。
山下
なるほど。そこには「アイデンティティとしての日本」は大事なんですね。
山田さん
もちろん。結局、「世界基準を目指す」とか「世界基準の物語」というとき、僕は日本人なので、「日本とは何か」を深掘りするしかないと思うんです。
だから今、日本の歴史をもう一回勉強し直そうと思っています。それは強烈に世界性を帯びるはずなんです。
自分たちが育ってきたこの環境をよりもっと再発見し直すし、深掘りすることが世界基準への一番の近道だと思っているんです。
山下
それは、世界基準を“作る”んですか。それとも世界基準を“知る”んですか?
山田さん
日本というものを深掘りしながら、世界基準を“発見”しに行く旅。
その挑戦をするフェーズがスタートした感じです。ハードな旅なんですけどね(苦笑)。「アイツ、壮大にこけたな」みたいになっても、もうしょうがない。トライするしかないです。
Minimalにしかできない「日本とは何か」という掘り方
山下
僕たちも今、世界に向かうことを考えているのですが、なんか「日本のブランドです」というとすごく安っぽく捉えられるのが嫌だなと思っているんです。
じゃ何て言えばいいのかと考えています。
日本のことをちゃんと自分たちで咀嚼した上で、この文化や伝統に乗っ取った文脈でMinimalはものづくりをしていることを表現したいんですけど。
山田さん
Minimalにしかできない「日本とは何か」という掘り方は絶対にあると思います。
僕らは日本人として日本に生きていますけど、日本のことを全然理解していないと思うんです。
まだ全然一面的なところしか見えていない。掘れば掘るだけ多様な顔を見せるのが日本なんです。それはじつは、どこの国もそうかもしれないですけど。
“新しい日本観”を再発見する旅の先に、新しいプレゼンの仕方が見えてくると思うんですね。
それはたぶん、今のお土産屋さんにある“日本のお土産”みたいなイメージとは全く違う可能性も高く、そのほうが面白いし、「これもまた日本なんだ」というものを探したいと思っています。
山下
うん。なんか“得体の知れないもの”でしか世界基準で勝てない気もしているんですよね。
山田さん
そうですね。だからその「考え方のフレームワーク」ですよね。
それはもしかしたら東洋哲学的なことかもしれないですけど、欧米圏にない「OS」を提示できるかですね。
じつは欧米圏でそういうものを本質的なところで探し始めてるんじゃないかなっていうのは感覚的に思ったので。
要するに、世界は新しいネタを探しているんです。
日本には売れている漫画やモンスターIPがたくさんあるわけですけど、その売れている本質や物語の本質を欧米圏ではどうしても深いところで解釈しきれないから、日本アニメの安易なハリウッド実写化みたいな映画が生まれちゃうんです。
山下
直近の取り組みでいうと、いかがですか。
山田さん
できれば映画をハイブリッドで作ってみたくて、日本だけじゃなく韓国やアメリカの監督などと組むとか、企画とその物語にとって必然性のあるハイブリッドにはトライしたいですね。
要するに外的環境の刺激を受けた異種勾配型の製作体制という、作り方そのものから変えたいというのが次のフェーズですね。
自分の経験値と失敗の蓄積からしか、そんな危険なことをトライできないと思うので(笑)。
日中合作や日米合作ってだいたい大失敗するんですけど、そこをより深い部分で換骨奪胎してゼロから有機的に構築していくやり方を模索しながら和魂洋才のアップデートができないかなと思っていて。
あとはもう、Minimalの世界進出をマジで応援してますので、手伝えることあったら微力ながら手伝いたいです!
山下
本当に心強いです!よろしくお願いします!(笑)
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カルチャー対談は以上です。
最後までお読みくださり、どうもありがとうございました。
山田兼司さん
1979年生まれ。慶應義塾大学法学部卒。2003年テレビ朝日入社、報道局を経て、10年以上、映画/ドラマプロデューサーとして勤務。
ドラマ「BORDER」シリーズ、「dele」などを手掛け、東京ドラマアワード優秀賞を2度、ギャラクシー賞を3度受賞。2019年から東宝に移籍。映画「百花」ではサンセバスティアン国際映画祭で最優秀監督賞、映画「怪物」でカンヌ国際映画祭脚本賞、クィアパルム賞の2冠。「ゴジラ-1.0」では北米の邦画興行収入歴代1位を記録し、史上初のアカデミー賞視覚効果賞を受賞。同年、個人として「怪物」「ゴジラ-1.0」で2つのエランドール賞と藤本賞を受賞。北米では2023年を代表する「アジアゲームチェンジャーアワード」をグラミー賞受賞アーティストのアンダーソン・パークらと共に受賞した。
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