【Minimalと暮らす人 Vol.9】小説家・麻布競馬場さんが問いかける “平成”的価値観

2024.02.06 #Minimalと暮らす人

Minimalを自分のスタイルで楽しむ方々にお話を伺う、インタビュー第9回。

“Twitter文学”“タワマン文学”として話題になり、匿名・顔出しなしで執筆活動をする小説家の麻布競馬場さん。デビュー第2作『令和元年の人生ゲーム』の刊行を前に、ディープなMinimal愛好家ならではの楽しみ方をお伺いしました。

Minimal The Specialty 麻布台ヒルズ店にて

ベストのペアリングを一生懸命探してます

−−Minimalを知ったきっかけは何でしたか?

麻布競馬場さん
Minimalのことは以前から知っていたのですが、食べたのはごく最近という「後発勢」なんです。

2年くらい前かな、たまたま友人の引越し祝いを渋谷スクランブルスクエアで探しているときに催事出店されているのを見かけ、チョコレートサンドクッキーを買っていきました。

それを食べたのが初めてで、なんて美味しいんだ!と驚き、そこから自分用に買い始めたんですね。

−−普段はどんなふうにお使いいただいていますか

麻布競馬場さん
普段あまり甘いものを食べないので、そもそも自分用にお菓子を買うこと自体が珍しいんです。

コロナ禍でリモートワークが増え、去年からは小説連載も決まって自宅で執筆する時間が増えたことで、家でMinimalの板チョコレートをバリバリ食べる習慣が始まりました。自分でも本当に意外です。

僕の中では、昼の食べ物と夜の食べ物は明確に分かれていて、同じビスケットでも甘めのものは昼、しょっぱいものは夜に、といった具合なのですが、Minimalの板チョコレートは昼夜どちらもいけるんですね。

好きな板チョコレートは「'Arhuaco」と「SAVORY」ですね。

昼間は'Arhuacoに玄米茶をペアリングして、今のところ自分で到達した一番の組み合わせなのですが、夜はワインやウイスキーと合わせています。

'Arhuacoは“懐が深い”というか、いろいろな楽しみ方ができますよね。

SAVORYはまだベストのペアリングを見つけられていなくて……。

ウェブサイトには「ジャスミンティー」と書かれているので、他の組み合わせも見つけたいと一生懸命探してます。

でも、組み合わせが難しいからこそ面白いんですよね。

最高の「一人遊び」の道具

−−Minimalで特に好きなところはありますか

麻布競馬場さん
まずやっぱり「圧倒的に美味しい」という馬鹿みたいな回答になってしまうのですが(笑)、その上で「楽しい」というのは大きいなと感じています。

チョコレートがカカオでできていることは頭では分かるものの、これまでの人生でカカオについて考える瞬間ってないじゃないですか。

チョコレートの先にある何かを考える瞬間があるのは楽しいですよね。

これは飲食店も同じで、僕は「楽しいお店」が好きなんです。

「美味しい」ものはお金を出せば食べられますけど、友達とワイワイ言いながら食べられるとか、自分一人で食べながらもいろんなことを考え、頭をいろんなところに連れていってくれることが「楽しい」んですね。

最高のペアリングを試したり、この乳酸っぽさは何なんだろう?とか考えたり、「一人遊びの道具」としては本当に最高だと思います。

深夜まで小説を書いているとき、やっぱり楽しみがMinimalだったんですね。すごく創作の助けになりました(笑)。

Minimalは、パーティに必ず居場所がある

−−Minimalをギフトで使われることはありますか

麻布競馬場さん
よくホームパーティに「7DAYS CHOCOLATE」を持っていきます。

Minimalを食べる体験自体が頭を使うので、美味しいというだけじゃなく、7種を食べ比べて「どれが好きだったか」と話しやすいですし、ペアリングも楽しめます。

お酒に合わせてもいいし、食後のお茶菓子にしてもいい。パーティに必ず「居場所」がある感じがしますね。

ちなみに人に渡すときは、スマホで「公式サイト」も一緒に見せています。

自分が食べたものが一体どんなものだったのかという答えが書かれているので、自分なりの答えと突き合わせるんです。カルタみたいな感じですかね(笑)。

僕はやっぱりそこが一番「楽しい」と思っているんですね。

いろいろな人の意見があって擦り合わせる楽しみというか、みんな好き勝手に言いながらみんなで同じものを食べている一体感。

そこを楽しめるのがMinimalならではですよね。

Twitter文学は「平成とどう向き合うか」という話

X(旧Twitter)で、Twitter文学として話題をさらったデビュー作『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』を経て、2作目『令和元年の人生ゲーム』が2024年2月上梓される。

商品の説明や名前

−−登場人物の解像度が綿密で印象的なのですが、取材はどのようにされるのですか?

麻布競馬場さん
じつは取材はしていないんです。

小説では鬱屈した登場人物を描くことが多いのですが、僕自身は社交的で明るくて(笑)、だからコロナ前は毎日誰かと飲みに行ったり遊んでいました。

それで、人間のことがたぶんめちゃくちゃ好きなんです。

仲のいい人だけでなく、嫌いな人も「なぜこんなに嫌いなのか?」と知りたくて頑張って考える癖がありました。

その人の言動や社会的地位を、その人の内面性として理屈付けるみたいなことをずっと趣味としてやっていて。

ちなみに小学校の通信簿に「共感性が低い」と書かれたことがあり(苦笑)、昔から他人を理解しようと考えて観察して、自分を合わせるみたいなことをやっていたんですね。

あと、記憶力がいいほうなので、1回見たことをけっこう覚えてるんですね。

ちらっと行った旅行先や友達から聞いた話を覚えてて、データが溜まっていました。それでTwitterで最初の140字を決めたら、あとは自走させる書き方をしていました。

−−独特の狂気を感じる描写が印象的でした

麻布競馬場さん
人がおかしくなる話がすごく好きなんですよ。好きな主人公が最後は狂ってほしいんですね(笑)。

愛でもいいし、憎しみでもいいし、とにかく何かに取り憑かれた人間がたぶん好きなのでしょうね。自分もきっとそうなのだと思います。すごく気をつけて距離を取っていますが、変な共感も持って書いています。

『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』は、“平成”の病気に取り憑かれながら何もできない人や、そこからあえて距離を取っている人を描くことで、「平成とどう向き合うか」という話だったと、僕は捉えています。

新作は、すごく狭くて近い時代小説

−−2月に第2作が刊行になりますね

麻布競馬場さん
2作目は連作短編(4話)になりますが、前作『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』の続編と捉えています。

物語の舞台は2016年から2024年。平成の終わりから令和の初めまでという、「すごく狭くて近い時代小説」と僕は呼んでいます。

平成という時代に自分で向き合い、「平成的価値観を成仏させる」ところがスタート地点になっています。

平成的価値観というのは、東京で学歴やタワマンにこだわってマウントを取ったり、ガツガツした意識高い上昇志向を指しています。

自分に取り憑いている怨霊の正体も悪しき平成的価値観だと思っていますし、Z世代と呼ばれる若い人たちの中にも棲み続けていると感じています。

今回は4つの時代ごとに、「学生起業してみたいと言っているけど、やらない人たち」「仕事だけが人生じゃないよねと言いながら、仕事以外にやることが見つからない人たち」「これからはZ世代の時代だ、平成的な競争はもう古いと言いながら、正しさという別の競争に巻き込まれる人たち」「一周回って平成的価値観でしょと言って、新しい時代についていくことから逃げる人たち」をそれぞれ描いてみました。

何年かごとに「正しさ」が入れ替わり、みんなそれに食らいついていかなくてはと思うけれど、正しさを履行できずに傷ついていく、その時代に生きて苦しんだ人たちを徹底的に書きました。

平成的価値観を踏み台にして、みんな幸せになっててほしい

−−平成的価値観というのは終わらせたほうがよいものですか?

麻布競馬場さん
そこは僕も悩んでいて、平成的な価値観、つまり圧倒的に努力して、圧倒的に成長して、そうして他人や社会に対して「価値を出す」って、自分を愛してあげるための最も手っ取り早い方法じゃないですか。

もし価値を出さずに、他人に対して何も好ましいこともせずに、感じがいい人間でいる以外に、僕は正気を保ったまま自分を愛せるのか?と考えたときに、たぶんできないんですよね。

僕はもう「心」のカタチが「平成」に削り取られていますので(笑)。

そことどう向き合っていくか、令和における幸せとは何か?を考えることは、令和の課題なのかなと思います。

タイトルの『令和元年の人生ゲーム』というのは、タカラトミー社の「人生ゲーム」の令和版を基にしていて、盤上に「ゴール」がないんですよ。

ルーレットを回してフォロワーを増やしていくんです。みんなぐるぐる回るしかないんですね。

「平成的価値観はもう古くなったとして、じゃあみんなは新しいゴールを見つけたんですか?」という皮肉な問いかけにいいと思って、タイトルに決めました。

−−10年後にはどういうふうに読まれると考えることはありますか?

麻布競馬場さん
理想を言えば、民俗学の史料として読んでほしいですね。

当時の人たちが一体どんな社会的正義を背景にしながら、どういったコミュニティや立ち位置を選び、どんなふうに振る舞い、何を思っていたかについて自分なりに徹底的に掘り下げたつもりですので。

だから、10年後に振り返って「馬鹿らしいな」と思って読んでほしいですね。

こんなことに苦しんでいたのかと。未来の人たちが幸せになっていてほしいんです。平成的価値観を踏み台にして、みんな幸せになっててほしい。

−−でも10年後もあまり変わらなそうな気もしますね……

麻布競馬場さん
たぶんそんな気もします(笑)。

10年後にも共感があるとしたら、社会としては不幸なことですけど、書き手の僕としては嬉しいところでもあります。

だから堀江貴文さんという、僕にとって平成的価値観を最も代表する先輩が第1作に共感してくださったことは嬉しかったんですよ。

堀江さんと僕は20歳くらい差がありますが、それでも心に根差す価値観はあまり変わらないんだなと。

でも、だからといって「時代が変わっても僕たちは永遠に幸せになれない」と諦めるのではなく、やっぱり悩み続けることに意味があるんだと思います。

人間とか人間関係って、僕はやっぱり一番身近で面白いミステリだと思っているので、僕はこれからもちっちゃな人間の話を書き続けていきたいですね。

 

麻布競馬場さん

1991年生まれ。慶應義塾大学卒。2021年からTwitterに投稿していた小説が「タワマン文学」として話題になる。2022年、ショートストーリー集『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』でデビュー。
https://twitter.com/63cities

 

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