Minimal創業メンバーの一人であるエンジニアリングディレクター・朝日の視点から、Minimalのものづくり思想について日々考えていることをお届けします。
第4回は、システムエンジニアの経験から、チョコレート造りの独自発想についてお話しします。
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インプットとアウトプットという考え方
僕は大学を出たあと、しばらくシステムエンジニアとして働いていました。
そのときの方法論はチョコレートを造る基盤になっています。「Input(入力)-Output(出力)」というのがその一つです。
システムエンジニア時代には、材料や構成要素(インプット)をもとにデータベースを作って編集し、要件定義されたシステム(アウトプット)を納品します。
チョコレート造りにおける「インプット」は、素材である「カカオ豆」です。
そして「アウトプット」は、完成品である「チョコレート」です。
Minimalではチョコレートの先に「嗜好品になる」というゴール設定をしていますので、これが「要件定義」とも言えます。
この中で、自分にできることはインプットとアウトプットの間にある部分だと考えています。
"ラベル"に対して忠実ですか?
要件定義(ゴール)に対し、「どうすれば今のお客さんにとって面白いものになるんだっけ?」と考えます。
面白さの要素のひとつは、僕は「分かりやすさ」だと思っています。
たとえば、シングルオリジンで「マダガスカル60%」や「タンザニア70%」などと表記されたチョコレートがあっても、誰も味の想像がつかないですよね。
どちらを買えばいいの?と思ってしまいます。
この「入口でつまずく」というシステムに、まず問題があると捉えます。
チョコレートにわかりやすく正しいラベルがついてない。データがばらついている状況で、選ぶ手がかりが機能していないのです。
そこでMinimalでまず着手したのが"ラベリング"でした。
「ナッツのような味(NUTTY)」「フルーツのような味(FRUITY)」などの商品ラベルを置いて、なるべく理解がクリアになるように、納得感が高くなるように仕立てました。
そうすると造り手としては、僕自身の好き/嫌いや美味しい/不味いということとは無関係に設定された「ラベルに対して忠実ですか」「そこにノイズはなくクリアに表現されていますか」ということを大事にする発想が生まれます。
ショコラティエとの考え方との違い
通常のお菓子屋さんと僕の発想の違いは、エンジニア出身という出自による違いかもしれません。
例えばショコラティエの方が、マダガスカル産のカカオからつくったチョコレートの味を美味しいと思ったとすると、その中心にあるのは造り手自身の感覚になります。
材料の選び方も意図的になります。
たとえば、チョコレートと言ってもカカオ豆から選ぶ必要もなく、あるココアとバニラを使って自分が美味しいと思うスイーツを表現してよいわけです。
インプットという発想はあまりなく、ゴールのアウトプットは強いて言えば「アーティストの作品」となります。
僕の場合はそうではなく、インプット・アウトプットはあらかじめ決まっていて、ゴールに対してすでにあるものをどうやって忠実に表現するかという発想になります。
これはどちらが良い悪いというお話ではなく、僕の考え方は「素材本位」で、「分かりやすさが価値」だと捉えているということです。
提案ができる、アーティスト気質を含んだエンジニア
お客さんの求めるものは、「美味しいチョコレート」であって、カカオ由来の果実味があったり、植物や花のようなフレーバーをもつものでないのかもしれません。
Minimalでも王道の「NUTTY」ラインは非常に好まれます。お客さんの求める100点とはそれである可能性が大いにあります。
でもそこに「FRUITYやSAVORYという面白さもありますよ」と提案していくのが、120点にしていく作業と言えます。
プラスアルファをちょっと忍ばせていく。「こういう世界もありますよ」と先があることを提案し、お客さんが見えていない要件を現実化するのが優秀なエンジニアです。
僕はアーティスト側の人間ではなく、「エンジニア」であることを自認していますが、僕の憧れは「アーティスト気質を含んだエンジニア」なのかもしれません。
100点のものを造るのはエンジニアとして最低要件です。
でも、それですっぱり割り切れる人間なんてほとんどいないはずです。僕は100点の仕組みは創れるかもしれないけれど、何もなく100点のアウトプットは造れないですし、アーティストならば120点ではなく200点や300点を取って感動を与えられなくては意味がないと思ってしまいます。
僕はそうしたアーティストに憧れつつ、インプットとアウトプットに忠実なエンジニアでありたいと考えています。
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