渋谷区・富ヶ谷にて創業し、10年を迎える「365日」(ウルトラキッチン株式会社)とMinimal。
ウルトラキッチン代表の杉窪章匡(すぎくぼ・あきまさ)さんと、ゆっくりお互いのビジョンや運営について語り合いました。
中編は「一流の職人」について、社内のマネジメントなどについても話し合います。
※前編はこちら
世界は美しくなっている
杉窪さん
僕、プロスポーツを見ながら「未来がどうなるか」といつも予測しているのですが、創業前のころ、世界で一番お金をもらっているスポーツ選手がメイウェザーだったんですね。
彼のボクシングを見るとマイク・タイソンと違って、ディフェンス上手なんです。これを僕らの業界で言うと「働き方のホワイト化」だと思ったんです。
今はSNSのおかげで裏まで見えるような時代じゃないですか。だからもう「いい人しか成功しない」と思ってますよ。
今、プロスポーツ選手で世界で活躍できる人で、性格悪い人ってたぶんいないですよね。性格が悪い人は日本から出られないです。もうそういう時代だから。
山下
大谷翔平さんを見ていると、そうですよね。
杉窪さん
これは、職場のマネジメントも同じなんです。
昔って「上の人の言うこと聞く」という文化があったからマネジメントしやすかったんですよ。パワハラやモラハラで抑えつけることができた。でも今はそんなことできません。
じゃあ何でマネジメントするの?と言ったら「人気者」でしかないです。
裏表がない、嘘つかない、ごまかさないなど、めちゃくちゃいい人で、めちゃくちゃ努力して尊敬できること。だからそこを磨かないとマネジメントができないんです。
……だって大谷翔平に言われたらみんなやるでしょう?(笑)
山下
たしかに。
杉窪さん
これが、世界が美しくなっているということです。
料理って「化学」なので、真面目にやったらちゃんとなるし、いい加減になったらダメになるんです。だから一流になるほど、ちゃんと真面目で一生懸命なんです。そんな世界を知ってしまったら、美しくないですか?
山下
それで言うと、さっきの年功序列は正しい部分もありますよね。真面目にやってきた時間が長ければ、いろんなことを知れるじゃないですか?
杉窪さん
そう。すべてのものは、長所と短所を兼ね備えるわけですよね。年功序列も健康も結婚も友達付き合いも。メリットとデメリットがあって、バランスをとるのが大事です。
たとえば、一般的な製パン理論の本も、いいことしか書いてないんですよね。長所しか書いてない。だけど「これをやったらどういうデメリットが出るのか」も大事ですよね。
山下
メリットだけを抽出して突出させるとバランスが悪いということですね。
杉窪さん
そうです。今日もテレビで「納豆は熱に弱いから45度のご飯に載せたほうがいい」って言ってたんですけど、それって納豆のことしか考えてないんです。
山下
ご飯がそれで本当に美味しいのか?という話ですね。
杉窪さん
そうなんです。よく「健康のためにこれを食べたほうがいいよ」とか言うけれども、そんなことは何一つなくて、結局バランスよく食べるしかないんです。
仕事をする5つの意味
山下
ちょっと社内でのマネジメントの話も伺いたいのですが、新卒社員は教育しやすいところもあると思うのですが、中途採用の場合はどうしてますか?
杉窪さん
うちに入社する時に「仕事をする意味」みたいなことから教えるんですよ。
全部言語化しているので。1)報酬を得る 2)スキルアップ 3)目標・目的の達成 4)社会貢献 5)楽しむこと。この中でどれがプライオリティが高いの?という確認ですよね。
昔はたぶんスキルアップ一択なんですけど、今みんなに聞くと「楽しむこと」というのがすごく増えてて、楽しむことが目的の子に対して「スキルを身につけろ」と言ってもだめなんです。まずは楽しむということをやって、それができたら「でも、1個だけだと効率悪くない?」という話をします。
山下
なるほど。北風アプローチではなく、太陽アプローチですね。ちゃんと本人のやりたいことから果たしてあげて。それで皆さん変わっていきます?
杉窪さん
変わっていきます。僕、めちゃくちゃ教えることも育てることも上手なんです。自分で言うぐらい(笑)。だからよそからうちにきて再生して僕がプロデュースしてるお店をやってもらったりもしてるので。
山下
それはなんでですか?自己分析的に。
杉窪さん
これ、言っちゃってもいいですか? 僕が、圧倒的に能力が高いからです(笑)。
山下
杉窪さん節(笑)。
社内のイメージは、ブラスバンド部
杉窪さん
みんなに言っているのは、全国優勝を目指す「ブラスバンド部」のイメージです。部活の中でいろいろなパートに分かれて、新人が入ってきたら先輩が教えてチームを強くするんです。チーム全体が良くならないと演奏はできないので。裏テーマは「青春しようぜ!」です。
山下
みんな共感します?
杉窪さん
します。共感しなければ辞めればいいんです。自然農法の作物がそこに定着するかどうかって、そこが居心地いいからじゃないですか。だから、定着率とか離職率は考えなくていい。
山下
それは「こちら側の土壌はこうだよ」というのがしっかりしてるからですね。
杉窪さん
そうです。そういうことです。僕、いつも言っているのが「なんか合わないな」と思ったら辞めればいいし、「居心地いいな」と思ってもそんなに長くいなくていいよと。
山下
でも、会社の中で成長して、そのブラスバンド部の可能性を広げていくような人がいたら、どうですか?
杉窪さん
自分でやればいい。その方が世界が広がる。
僕は部活顧問のポジションなんです。全国優勝を目指す名門校って、メンバーが3年で入れ替わりますよね。それでも優勝するわけです。
山下
それは「仕組みで勝つ」ってことですか?
杉窪さん
僕の教育で勝つ。名門校にいる名物顧問が何をやってるかと言ったら、要は生活習慣とか生活態度まで口を出すんです。僕もそこまでやります。だからメンバーが入れ替わっても大丈夫。
毎日、全店舗で技術指導
山下
「美味しいものを作る」という品質管理の方はどうやっていますか?
杉窪さん
ほぼ毎日、試食会をやってるんです。僕が全店舗をまわって、一緒に食べて味を見ます。何が足りないのか、何を修正すればいいのか、全部理論を交えて説明します。
他のお店だと「なんか上手くいってないな」というときに答えをくれる人が誰もいないんです。「なんでかな?天気のせいかな?」で終わっちゃうんですよ。
山下
「圧倒的な能力を持ってる」ってそういうことですね。なんで違うのかということも含めて、再現性高く教えてもらえるということですね。
杉窪さん
そうです。僕が圧倒的だから(笑)
山下
(笑)。自分で笑っちゃってるじゃないですか(笑)
杉窪さん
ストロングスタイルなので(笑)
山下
それにしても、今でも全店で試食してるってすごいことですよ!
杉窪さん
僕がプロデュースしてる店でもやるように言ってるんですけど、なかなかやってないですね……
山下
そこに差がでますね。毎日の積み上げは時間が経つと圧倒的な差になっていきます。
杉窪さん
僕、意外と真面目なので「やると決めたことはやる」んです。で、そういう姿勢こそがマネジメントで大事な要素なんです。みんな、ちゃんとやってる人の言うことは聞くんです。これが一個でも欠けると調和がとれなくなります。
食、ナチュラリスト、そして「モテたい」
山下
杉窪さんって何が楽しくて仕事してますか?「世界平和に近づいている」ということですか、そういう活動をやってるということが楽しいですか?
杉窪さん
僕を構成する三大要素というのがあるんです。一つが「食」で、二つめが「ナチュラリスト」。そして三つめが「モテたい」(笑)。
山下
でましたね、「モテたい」(笑)。今日全然出てこないなーと思って、ちょっと待ってる自分がいました(笑)
杉窪さん
僕ね、いつも言ってるのが「モテないやつが店を作るな」ってことなんです。モテない人って、理由があってモテないんですね。そういう人がお店をやっても流行らないです。お客さんが喜んでくれるとか、生産者の人が喜んでくれるとか、スタッフが喜んでくれるとか、これ全部「モテる」ってことです。
山下
話を戻すと、杉窪さんを動かす原動力はーー
杉窪さん
モテたい(笑)
後編に続きます。
最終回は、これからの食の世界について語り合います。
※後編はこちら
杉窪章匡さん
1972年、石川県生まれ。両祖父が輪島塗職人という職人家系の血統。24歳でシェフパティシェに就任。2000年渡仏。2つ星「ジャマン」1つ星「ペトロシアン」を経て2002年に帰国。帰国後、数軒のパティスリーでシェフを務め、2013年12月「365日」をオープン。「ジュウニブンベーカリー」など現在首都圏で8店舗を運営。
https://ultrakitchen.jp/
※Minimalカルチャー対談、過去の連載はこちら