Minimalは12月1日で、創業9周年を迎えることができました。いつも応援してくださっている皆様に、この場をお借りして厚く御礼申し上げます。
代表・山下が、社内各部署のメンバーと2023年を振り返る特別対談をお届けします。
初回は、共同創業者でありエンジニアリングディレクター(チョコレート製造責任者)の朝日と、Minimalが独自開発したチョコレート製造機材について語り合います。
新型コロナウイルス禍に、開発着手
山下
チョコレートの製造工程は大きく分けて「砕く」「焼く」「混ぜる・練る」「固める」というのがあるのですが、それぞれの機材を探す中で、自分達がやりたい事ができる機械が既存の機械ではみつからず、もう自分たちで開発するしかない!って思いました。
理論的にも新しいことをたくさんやっていたので、今思えば、そういう結論になるのは当たり前でした。あれが3年くらい前かな?
朝日
そんなになりますか。
山下
コロナ禍の真っ最中だよね。今にして思うと、あの時期に新機材開発なんてクレイジーだなあ(笑)
朝日
それまでもFOODEX(国際食品・飲料展)を何度見に行ったことか。
山下
僕は既存の機械にないなら、あきらめるのではなく、意地でもその新しい製法を実現させたいと思っていて、あらゆる可能性を探っていました。
その中で、今一緒に開発を取り組んでいるエンジニアとのご縁をいただいて開発できるようになったのはラッキーでした。
100年間、誰も更新しなかった製造機材
山下
エンジニアとは数え切れないほど打ち合わせをしましたけど、まず僕たちが「どういうことをしたくて、これまでこういう機材でやって、こういう結果を得ている」という整理が必要でしたね。
朝日
どうしたらもっといいチョコレートが造れるんだっけ?ということで、いろいろ知見が溜まって、やれることってなんだろうというのを広く考え直す機会になりました。
山下
チョコレートの製造機材って、たぶん今の製法の原型ができてから、100年間くらいは誰も更新してこなくて、技術的には、いかに量産を効率的にするかという、効率化と大型化の方向性に力をつかっていたと思うんです。
それを更新しようとしたんですよね。
そこにはやっぱり僕たちが「素材ありき」という発想でものづくりしてきたことが大きいですね。
素材にストレスをかけすぎたり、適切にコントロールしないと味が飛んじゃうことを経験則で知っていて、それを改めて解釈し直したのがすごく面白かったな。
朝日
そうですね。たとえば魚を刺身で食べた経験があったとしたら、焼き魚を食べた時にも、刺身しかだせない魅力があると知ってしまっているんです。だから、一度その良さを知ったら魅了されてしまうんです。
山下
すごいわかりやすいたとえだね。刺身が良いと思ったら、その美味しさや良さを僕たちはなんとか再現したいと思う性格のチームなんですよね。
朝日
質を保ちつつ量産化するというのも課題でした。結果として最初のプロセスはそれこそ100年以上に前に大手メーカーが量産化・大型化でたどった道を追いかけざるを得ないと痛感しました。
山下
100年間続けられてきたやり方には、やっぱりある程度の合理性があるわけですよね。それはたしかに乗り越えるにはハードルが高いなと気づいたのもある(苦笑)。
相関関係であって、因果関係ではなかった
山下
機材開発は、僕たちのやりたいことを整理したあと、仮説を立てていきました。それを「原理検証」と言って部分的に再現する工作機械を作ってもらうんですけど、実際にやってみるとうまくいかないことがめちゃくちゃあって……。
朝日
そこまで細かくはわかっていないということですね。ここを変えたら当然味が変わるよねと思っていた部分がたしかに変わったんだけど、具体的にどう変わるのかは予想していなくて。
山下
やっぱり本当に何が起こってるかということは全部わからないんです。要するに僕たちが「関係があると思っていた要素」が、相関関係であって、因果関係ではなかったということですね。
しかも、さんざん理詰めで打ち合わせても、最終的にはエンジニアのすごい閃きで着地しちゃったり(笑)。
朝日
そう。
山下
僕が面白かったのは、朝日さんが力点を置いている点と、俺が力点を置いている点が違ってたりしてね。
「あ、朝日さん、そこ気にしてんだ」ってことが何度もあったな。たとえば焼きの際の熱のムラをなくしたほうがいいと僕は思ってたけど……
朝日
僕はばらつきがあったほうがいいという立場。同じ現象を見て、同じゴールに向かうにしても見ている場所は違うんですね。こっちが大事じゃないかということをお互い関係なく言いますからね。
山下
最初にけっこう風呂敷を広げたので、なんか途中から忘れられてることもたくさんあったよね(笑)。
朝日
まあ、全部は難しいでしょうからね。エンジニアもできそうと思ったことから着手するでしょうし。
もしかしたら日本で一番カカオ豆を触っている!?
山下
僕がこのプロジェクトを通して思ったのは、やっぱり朝日さんの中に暗黙知がめちゃくちゃあるわけですよ。
誰よりもカカオ豆を触っているからです。
Minimalは小さなロットで世界中の多種のカカオを仕入れて、9年間もそれを毎日膨大にいじってるというのは、日本でも有数の暗黙知じゃないかと思うんです。
Minimalを始める前から考えると15年近く朝日さんはカカオ豆を扱っている。量って確実に質に転化すると思っているので、それで引き出しを増やして自分の中で確からしい仮説を持てるかが腕の見せ所なわけです。
朝日
僕にとっては当たり前のことをしていただけですが、それを改めて体系的に考え直したら、「ここはコーヒーのこの理屈を使っていた」とか「料理のこの理屈を使っていた」というのがありました。
エンジニアに伝えるためにそれを言語化できた部分は、たしかにあったと思います。
山下
朝日さんの暗黙知としてあったものが今回いじれる変数として増えることで、再現性が高まったり、職人の育成にも役立つと思うんですよ。
この変化をポジティブに受け取れるかは、たぶん使い手の技量次第ですね。いかにいじれる変数がたくさんあっても、適切にその豆の素材に合わせて使えるかという力量がすごい大事だと思っていて。
朝日
料理でたとえるなら、魚にどうやって熱を入れるんだっけ?という話です。蒸気でゆっくり熱を入れていくのか、油で高温で短時間でやるのかというコントロールを考えることは、料理の世界に近い発想になっていく。
山下
僕、職人芸ってそういうことだと思っていて、暗黙知が素晴らしいんだと思うんです。それを機材でいじれる変数があって、「こういう仕組みでやったら、こうなるんだ」ということが目に見えてわかることが、僕がすごく期待してるところだったりします。
より“手づくり”に近づく機材を
山下
僕は、「機械で造ると、人の手が入ってない」ということでは決してないと思っているんです。むしろ今回の機材は「より手仕事を進化させる機械」だと思うんですよ。変数が増えるというのは、手をかける数が増えるということなので、じつは手仕事を極めていくことじゃないかなと。
今回の機材はあくまで手作業の延長線上で、人の手をいかに入れるために使いやすい機械を作れるか、いかに手で実際に触ってるかのように正確にコントロールできるかをやっているので。
暗黙知でやっていたことをちゃんと機械を使って再現できるかなんです。「手仕事の変数を増やす」という発想で機械化する人ってあんまりいないと思っているので、これは偉大な一歩じゃないかと(笑)
だから、朝日さんに何度か「量産機が作りたいわけじゃないんだ」と言ったよね。
朝日
開発中はうまくいく、いかない、という話になりがちだからね。
山下
朝日さんは僕よりエンジニアリングのことがわかるから、「ここは無理だよね」って妥協しそうになるんだけど(笑)。
朝日
(笑)
山下
そうじゃない!と(笑)。こっちは関係ないと思ってるから。
でもこれもまだまだ初号機なので、ここから機材をブラッシュアップしていくことに意味があると思ってます。
朝日
機械の話を聞いてて思い出したのは「分子調理法」が出てきたときのことでした。
それまでは肉を焼くにしても、炭火なのかガスなのかオーブンなのかくらいの感覚的な選択肢の中でやっていたけど、厳密に温度をコントロールしてオイルの温度だけで調理ができるみたいな世界になり、「調理法が一つ増える」という感じがありました。
新しいジャンルを作っていくというところに踏み出せるか、その準備が整ったのであとは僕ら次第です、というところに立っているのでしょう。
即興でチョコレートを焼きたい!
山下
最後に余談だけど、今回ね、僕ちょっと決めてることがあって。今回の機械を使って、僕自身が工房で焙煎を久しぶりにやりたいなと。
それでゆくゆく小さな焙煎機も作ってもらって、カカオ豆のキットを持って、たとえばコーヒーを飲むときに「このコーヒーに合わせるんだったら、こういうカカオ豆とこういうカカオ豆でブレンドしたら面白くない?」って言ってその場で即興のペアリングのチョコレートを造るみたいなことをしてみたいなと。
そういうことが僕たちのファンを増やしていくような気がするんですよ。
朝日
そこまで身近になったらいいね。
山下
これ、ぼくの密かな野望です(笑)。
代表・山下とエンジニアリングディレクター・朝日の対談は、以上になります。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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